研究開発〜イノベーションストーリー〜

Innovation Story [Health♯07] ヘルスサイエンス研究センター 石井 有理 機能性食品研究所 中川 公太

ビフィズス菌が体脂肪を減らす!

2017年6月時点

「ビフィズス菌、絶対いけると思います」

 「ビフィズス菌、絶対効果があります!これで臨床試験やりたいです!」と、開発担当者が勢い込んで持ちかけて来たのは、2013年のまだ暑い季節のことでした。
腸内細菌が宿主(ヒト)の健康や疾病に影響を与える可能性については、すでに世界中の研究者が示唆していることではありましたが、当時新たに報告された1つの研究成果は私の心にも大きく響きました。それは、“Science(サイエンス)”という学術雑誌に載ったマウスを用いた研究成果でした。※1 無菌マウス(腸内細菌を持たないマウス)に肥満者の腸内細菌を移植すると“肥満ネズミ”になり、痩せたヒトの腸内細菌を移植すると“ネズミは太らない”という事実です。もちろん、与えている餌も量も同じです。この報告は腸内細菌と肥満を結びつける新たな証拠として大きなニュースになるとともに、商品開発への大きな後押しとなりました。

腸内細菌叢(そう)を改善し、
体脂肪の減少作用が期待される原料を探して

 このニュースで確信を得た我々は“肥満を改善する腸内細菌叢つくり”をめざし開発に着手しました。“十分な量を摂取したときに宿主(ヒト)に有益な効果を与える生きた微生物”をプロバイオティクス※1と呼びますが、我々はそのような菌の中から肥満を改善する作用が最も期待される菌の調査を開始しました。さらに、菌と一緒に摂ることで菌そのものに良い影響を与え、腸管や腸内環境の改善につながる成分も合わせて探しました。そして、多々ある菌や食品成分の中から最終的に選んだのは、2種類のビフィズス菌とN-アセチルグルコサミンです。2種類のビフィズス菌は肥満や排便に対する改善作用が期待されている菌であり、N-アセチルグルコサミンは腸管の粘膜を正常に保つ成分です。これらの成分を複合的に摂ることで腸内環境を改善し肥満を改善する効果が得られるのではないかと期待しました。

 さて、菌と成分が決まり後は本当に効果があるのかどうか、臨床試験で確認することとなりました。しかし、ここで一つ問題があります。ビフィズス菌は「生きたまま腸まで届く」ことが非常に重要ですが、普通に摂っても胃酸ですぐに死んでしまいます。そこで、我々は製剤技術を駆使し「生きたまま腸まで届ける製剤」の開発に着手しました。

“生きたまま腸まで届ける”製剤づくりに挑戦

 製剤開発に当たり、本来胃酸に弱いビフィズス菌が人工胃液中に2時間浸しても生きていることを目標設定しました。試しに普通のカプセルに入ったビフィズス菌を人工胃液に浸してみると、当然のことながら、完全に死滅してしまいました。※図1(灰) また当時、ビフィズス菌を胃酸から守ると宣伝されていた原料をいくつか試したところ、いずれも菌が死滅してしまいました。人工胃液の過酷な環境には耐えられなかったのです。そこで、世の中になければ自分達で作ってしまおうと考え、ビフィズス菌を胃液から徹底的に防御する仕組みを考案しました。ハードカプセル内部へ胃液を侵入させないこと、仮に侵入しても胃液を中和しカプセル内部を中性に保つことで、ビフィズス菌の生存率を大幅に高めることに成功しました。※図1(青) この技術は特許出願しています。

※図1

ビフィズス菌製剤の生存数の比較

ビフィズス菌製剤の生存数の比較

臨床試験で体脂肪の変化と腸内細菌叢の変化を確認

 菌を胃酸から守る製剤が開発できたので、いよいよ臨床試験です。試験は、BMI※2が高めの方にご協力いただき、開発したビフィズス菌製剤もしくはプラセボ製剤※3(ビフィズス菌の入っていない製剤)のいずれかを摂取して頂きました。24週間続けて摂取していただいた結果、ビフィズス菌製剤を摂取した群ではプラセボ製剤を摂取した群と比較して体重、BMI※図2、体脂肪率※図3、腹部総脂肪面積、腹部皮下脂肪面積が減っていることがわかりました。※図4

※図2(左)(上) ※図3(右)(下)

BMIの変化量の比較

BMIの変化量の比較

体脂肪率の変化量の比較

体脂肪率の変化量の比較

無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験

無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験

24週間の摂取によってビフィズス菌製剤を摂取していた群の方が体重や体脂肪率が有意に低下したことが確認された。

24週間の摂取によってビフィズス菌製剤を摂取していた群の方が体重や体脂肪率が有意に低下したことが確認された。

※図4

ビフィズス菌製剤を摂取していた方の腹部CT画像(52歳、男性)

ビフィズス菌製剤を摂取していた方の腹部CT画像(52歳、男性)

ビフィズス菌製剤を摂取していた方の腹部CT画像(52歳、男性)

 また、この試験で注目していたのは、体重などの変動と腸内細菌の変化に関係があるか否かでした。人の腸内細菌は1000種以上といわれており、試験の前後で割合が増えた菌、減った菌を全て調べるのは容易なことではありませんでした。しかし、地道に検討を続けた結果、ヒトのエネルギー代謝に良い影響を与える菌が増えていることがわかりました。この菌は、エネルギー代謝を活性化する短鎖脂肪酸の1つである酪酸を産生する作用があることが報告されています。この菌が増えることによって、体重増加を抑え長期的には体脂肪を減らすことに成功したと考えられます。本試験においてビフィズス菌の有効性とそのメカニズムの一端を明らかにしたことが認められ学会誌に論文として発表することが出来ました。

最後に

 私達は、商品の効果はもちろんですが、その“飲み易さ”も大事な機能の1つだと考えています。今回の商品開発においては“菌を胃酸から守る技術”を開発することで、生きた菌を効率よく腸まで届けることに成功し、優れた効果を発揮するとともに1日の摂取量を4粒に抑えることに成功しました。ファンケルならではの体内効率技術によって製品の機能性と利便性の2つの課題をクリアできたと考えています。

 腸内細菌の可能性は何も肥満改善だけに特化したものではありません。良い腸内細菌を形成することは、免疫、排便、肌の健康など様々な分野に広げることが可能です。今後は、それらの分野の可能性にもチャレンジしていきたいと思います。

【用語解説】

※1 プロバイオティクス

人体に良い影響を与える微生物、または、それらを含む製品、食品のこと。

※2 BMI

Body Mass Indexの略で体重と身長の関係から算出される、ヒトの肥満度を表す体格指数のこと。体重(kg)を身長(m)の二乗で割って計算される。成人ではBMI18.5未満が低体重、25以上が肥満とされる(肥満症診療ガイドライン2016、編集 日本肥満学会)

※3 プラセボ

“有効成分を含む剤”に外観や味が類似している“有効成分を含まない剤”のこと。「サプリメントを摂取しているから良くなるだろう」という人の心理的作用の影響を排除し、評価を正当に行うためにプラセボ剤を利用することがある。

引用文献

※1 Vanessa K. Ridaura, et al., Gut Microbiota from Twins Discordant for Obesity Modulate Metabolism in Mice,
Science, Vol. 341, Issue 6150, 2013

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