研究成果

人工皮膚内の細胞の生まれ変わりを
観察できるモデル技術を開発

ビューティサイエンス研究センター 東ヶ崎 健

POINT

  • ■人工皮膚を生きた状態で観察する技術を独自に開発。
  • ■皮膚細胞の代謝、防腐剤による活性酸素を発生の可視化に成功しました。

 ファンケルは、皮膚の表皮細胞が生まれ変わる様子(以下:ターンオーバーと記載)を生きたまま観察できる培養容器を独自に開発しました。この技術を使うことで、これまで困難だった表皮の生理学的な研究において、細胞のターンオーバーをしている状態で観察することができ、次世代の新たな化粧品開発に活かすことが可能になります。

 私たちの皮膚表層にある表皮は、基底層の細胞が表層へ向けて成長し、基底層、有棘層、顆粒層、 角層の4層の層状構造を形成しています※図1。各層は、それぞれ形態的、生理学的に異なる特徴を持つとともに、相互が作用しあってその機能を発揮しています。そのため、表皮の研究は、単離した細胞を単独で見るだけはなく、全層を有した状態で評価することが重要と考えられます。しかし、これまで皮膚研究に用いられてきた、固定化された皮膚組織※1、単離された表皮細胞※2、三次元皮膚モデル※3では、生きたままの状態で表皮の全層を同時に観察することは困難でした。当社でもストレス下で表皮細胞のターンオーバーが異常になることなど様々な解明してきましたが、その詳細の研究は課題となっていました。そこで、表皮細胞のターンオーバーを経過観察できる新たな生体皮膚モデルの技術開発に取り組みました。

 表皮の基底層から角層までの層状構造の観察をしたいと考えた時、これまでの技術では、基底層(表皮底部側)から強いレーザーを繰り返し照射する必要があり、細胞へのダメージが生じてしまいます。そこで本研究では、表皮の層状構造の側面からレーザー照射を行えるよう独自の三次元培養容器を開発しました※図2。その結果、レーザー照射による細胞へのダメージが軽減され、長時間の観察が可能になりました。

 同容器で表皮モデルの形成過程の観察を行ったところ、基底層における細胞分裂、角層に変化する際の細胞核の消失や角層剥離(はくり)など、表皮細胞の基底層から角層までの形成の過程を経時的に観察することができました※図3

 さらに本研究成果を用いて、シミやシワなど老化に深く関わるとされる活性酸素の発生測定にも成功しました。活性酸素は、通常生きた細胞でしか可視化することができないため、これまでの活性酸素発生の研究は、単離培養した表皮細胞で行ってまいりました※図4。本技術を用いて基底細胞から角層までの層状構造を有し、より生体の皮膚に近い状態と考えられる表皮モデルにおいて活性酸素の発生を観察したところ、基底層で活性酸素が強く発生している様子が観察され、さらに防腐剤によってその発生が増強されることが分かりました※図5

 本研究成果は、第25回日本バイオイメージング学会学術集会(2016年9月 名古屋市)で発表し、皮膚の内部を観察する方法のひとつとして、研究に応用しております。化粧品の開発には、皮膚内部の構造の変化を分子メカニズムからとらえることが重要です。今後は、老化に関わる遺伝子を人工的に調整した細胞を用いたり、ヒト由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いたりと様々な細胞の組み合わせに応用することで、皮膚老化の新たなメカニズムの解明に貢献できると考えています。

用語解説

※1 固定化

ホルマリンなどの薬剤を用いて細胞の生理現象を一時点で止めた状態にすること。細胞は生きていないため、生化学的な反応や成長は起こらない。

※2 単離された表皮細胞

表皮一部の細胞を単離して培養する細胞。

※3 三次元皮膚モデル

単離された表皮細胞を積み重ねた、層状構造を有する人工皮膚モデル。

ページトップへ