研究成果

「記憶力」に効果的な香りを新たに開発

ヘルスサイエンス研究センター 山岡 香央

POINT

  • ■「記憶力」に関わる脳機能研究において、作動記憶に関わる脳領域の活動を高める2種類の新規な香りを開発しました。

 認知症は高齢化が進む現代において大きな社会問題の1つであり、中核症状※1の1つとして著しい記憶力の低下があげられます。その予防には、脳を活性化させることが効果的であるといわれています。当社はこれまでに、香気成分である「テルピネオール」と「カンファー」に会話や読み書き、計算など私たちの日常生活を支える重要な機能である「作動記憶※2」に関わる脳機能の働きを高める可能性を示しました。また、「1,8シネオール」は記憶力全般を高める効果が期待される香気成分として知られています※1。そのため、これらの3つの香気成分を組み合わせることでさらに作動記憶の脳機能の働きを高められると考え、新しい香りの開発を進めてまいりました※図1左

※図1 当社における香りの開発の流れ

 本研究では、香気成分である「テルピネオール」と「1,8シネオール」および「カンファー」をそれぞれ異なる比率で調合し、2種類の香りを開発しました。それぞれを「香り541」と「香り622」と名付けて、記憶力に関わる脳活動への影響を検討しました※図1右。試験は、28歳~44歳の健康な男女18人を対象に行いました。試験では、参加者が「テルピネオール」「香り541」「香り622」の香りをそれぞれ吸入しながら作動記憶が必要とされるパソコン課題(2 バック課題※3)を行っている際の、脳活動を「光トポグラフィ装置※4」を用いて測定しました。

 測定の結果、「香り541」を吸入したケースでは、作動記憶の中で「情報を覚える」 ことに関連する脳領域で血流変化量がテルピネオール単独より増加し、「香り622」の吸入では、「最新情報に置き換える」ことに関連する脳領域での血流変化量がテルピネオール単独より増加しました※図2※図3※図4には、「香り541」と「香り622」による、「情報を覚える」ことと「最新情報に置き換える」ことに関わる領域における脳血流(酸化ヘモグロビン濃度)変化量を示しています。

※図2 香りを吸入している時の脳血流の変化量
※図3 「情報を覚える」ことに関わる領域の脳血流(酸化ヘモグロビン濃度)変化量
※図4 「最新情報に置き換える」ことに関わる領域の脳血流(酸化ヘモグロビン濃度)変化量

以上の結果から、「香り541」は「情報を覚える」という機能、「香り622」は「最新情報に置き換える」という機能がテルピネオール単独よりも優れている可能性が示唆されました。これら機能は作動記憶において主要な2つの機能であることから、「香り541」と「香り622」という新しい香りは作動記憶そのものの機能を高めることが期待できます。また、上記のように「情報を覚える」、「最新情報に置き換える」といった機能は、記憶機能全般においても重要な役割を担っていることから、本成果の応用は記憶機能の低下予防や学習の向上などにも役立てられると考えています。

 今後はこのような香りが持つ機能性を製品開発で応用できないかを検討してまいります。また香りと記憶力の関係性の研究にとどまることなく、ヒトの五感という視点から脳を介した様々な機能の解明を目指し、さらなる研究を進めてまいります。

出典

※1 Moss et al. (2012)

用語解説

※1 中核症状

認知症における「中核症状」とは、脳の神経細胞が壊れることによって直接おこる症状のこと。具体的には「記憶障害(もの忘れ)」、「判断力の障害」や「言語障害」など。

※2 作動記憶

覚えた情報を最新情報に置き換えながら行動に繋げていくための「記憶力」。

※3 2バック課題

一連の刺激(文字や数字)をランダムな順で呈示し、現在呈示されている刺激が2回前の刺激と同じかどうかを答えるという、代表的な作動記憶課題の1つ。

※4 光トポグラフィ装置

脳活動に伴う大脳皮質の血中ヘモグロビン濃度変化を計測する装置。

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