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分裂方向指示タンパク質(1)NUMA(2)とメラニン蓄積の関係を発見
シミのケアに表皮細胞の分裂方向を整えるという新アプローチ

2022年11月7日PDF版はこちら

 株式会社ファンケルは、肌のシミ部位では表皮細胞の分裂方向が乱れ、表皮の構造が変化することに着目し、表皮細胞の分裂方向を調整する機能について研究を続けています。
 このたび、シミ部位では垂直方向へ細胞分裂を指示するタンパク質が少ないこと、そのタンパク質の中でもNUMA(ニューマ)の減少が、皮膚構造の乱れとメラニンの蓄積を引き起こすことを見いだしました。さらに、NUMAを増加させることがシミをケアする新しいアプローチとして有用であり、アルテミアエキス(3)がNUMAの減少を抑えることを発見しましたのでお知らせします。
 なお、本研究成果の一部は、イギリスのロンドンにて2022年9月19日から22日まで開催された世界最大の化粧品学術大会:第32回国際化粧品技術者連盟 学術大会(IFSCC 2022)で発表しました。


<研究方法・結果>

【シミ部位は分裂方向指示タンパク質が減少し、皮膚構造が変化する】
 表皮細胞は垂直方向に分裂し、分裂した細胞は基底層から押し上げられ、分化(4)して角層を形成します。そして、先に形成された角層に滞留しているメラニンや老廃物の排出を行います。このように、垂直方向の細胞分裂は、健やかな肌にとって重要な役割を担っています。しかし、傷などのダメージが加わると、細胞の垂直分裂は乱れ、その部分を補充するように水平方向にも分裂します(図1)。また肌のシミ部位も、紫外線などでダメージを受けていることから皮膚構造を確認したところ、正常な部位に比べて細胞の垂直分裂の乱れによる構造の変化が確認されました(図2)。

 そこで、垂直方向へ細胞分裂を指示するタンパク質(分裂方向指示タンパク質)であるNUMA、INSC(5) 、GPSM2(6) を正常部位とシミ部位で比較した結果、シミ部位ではこれらの分裂方向指示タンパク質が少ないことが観察されました。
この結果から、シミ部位では垂直方向へ細胞分裂を促す機能が低下していることが明らかとなり、分裂方向指示タンパク質の減少が、皮膚構造の変化に寄与していることが示されました(図3)。


図3 正常部位とシミ部位の分裂方向指示タンパク質の比較
NUMA、INSC、GPSM2のすべてにおいて、シミ部位の方が正常部位より表皮全体、
特に基底層近辺の色が薄くなっており、各タンパク質の減少が観察された。

【NUMAはシミの主原因となる刺激によって減少する】

 次に、減少していた3つの分裂方向指示タンパク質とシミの主原因である皮膚炎症刺激と紫外線照射の関与について調べました。その結果、皮膚炎症刺激により、いずれも減少しましたが、紫外線照射ではNUMAのみ減少することが明らかになり(図4)、NUMAがシミ形成に最も関与することを確認しました。

 

図4 シミ誘発刺激の分裂方向指示タンパク質への影響
炎症刺激ではNUMA、INSC、GPSM2すべて減少したが、紫外線照射ではNUMAのみが減少した。

【NUMAがメラニンの蓄積を抑制する機能を発見】
 そこで、NUMAのシミ形成への関与についてさらに追究しました。NUMAの量が異なる2つの表皮細胞を用いて独自の皮膚モデルを作成し、NUMAの減少がメラニンの蓄積を引き起こすか検証しました。 紫外線照射がない場合、NUMAの多い皮膚モデルは、少ないものと比較して表皮の基底部分にメラニンの蓄積が観察されませんでした。紫外線を照射した場合、NUMAが多い皮膚モデルは、少ない方と比べて明らかにメラニンの蓄積量が少ないことを確認しました(図5)。
 以上のことから、NUMAは表皮細胞の垂直分裂を誘導し、紫外線照射によるメラニンの蓄積を抑制する機能を持つことを発見しました。

図5 NUMA量の異なる皮膚モデルによるメラニン蓄積比較
NUMAが多い皮膚モデルと比べて少ない皮膚モデルでは、表皮基底部分にメラニンが多く蓄積しており、
紫外線によってさらにメラニン蓄積量が増加することを確認した。

【メラニン蓄積を抑制するNUMAを増やす「アルテミアエキス」を発見】
 NUMAにメラニンの蓄積を抑制する機能を発見したことで、NUMAが多いほど抑制効果が高いことが期待できると踏まえ、100種類以上の生体成分や天然物由来成分、化粧品成分などから、紫外線照射により減少したNUMAを増やす成分を探索しました。その結果、紫外線で減少したNUMAを増やす働きがある「アルテミアエキス」を発見しました(図6)。

図6 アルテミアエキスによるNUMAへの作用
紫外線照射に伴い減少するNUMAがアルテミアエキスによって増加することが示された。

<研究背景・目的>

 当社では、気付かないストレスの蓄積が、エイジングや肌トラブルを加速すると考え、肌にストレスを与えない「無添加アンチストレス」の視点で研究を推進しています。美白の機能研究においても「無添加アンチストレス」と、敏感肌研究で培った「肌へのやさしさ」を考慮した独自の視点を持って研究を進めてきました。
 シミや肌の色ムラは世界共通の悩みです。そこで世界中の人々の肌を美しくしたいという想いで、誰もが透明感のある美しい肌になれる機能を見つける研究を行いました。その結果、個々の肌が持つ本来の正常な機能を生かしながら、均一で透明感のある肌になれる新しい美白機能を見いだしました。

<今後の展開>

 今回、分裂方向指示タンパク質NUMAが表皮細胞の分裂を垂直方向へ促すことで皮膚構造を整え、表皮のメラニン沈着を抑制することを明らかにし、新たな成分も発見しました。今後はこの成果を生かし、NUMAによる肌本来の正常化機能に着目した新たなシミ対策化粧品の開発を目指します。

【用語説明】

(1)分裂方向指示タンパク質
細胞の分裂には水平と垂直方向の分裂があり、同じ機能の細胞を増やす水平方向とは異なり、垂直方向は臓器の恒常性を維持するための機能性を持つ細胞を作り、臓器の立体構造を作り出す分裂。分裂方向指示タンパク質はこの垂直方向の分裂を維持するタンパク質のこと。

(2)NUMA
Nuclear mitotic apparatus proteinの略。分裂方向裂指示タンパク質の一つ。INSC、GPSM2と複合体を作って、細胞分裂の方向決めやそのために必要な核形成、紡錘体の集束に寄与している。その減少で垂直分裂が乱れる。

(3)アルテミアエキス
アルテミアから得たエキス。アルテミアは塩度の高い湖に生息し、過酷な環境変化には卵の状態で休眠し、成体として復活できる生命力の高いプランクトン。特徴成分としてグアニン誘導体を含む。

(4)分化
細胞の分裂において一つの細胞から異なった機能を持つ細胞へと分裂すること。表皮では、基底細胞が角層細胞へと変わっていく過程のこと。

(5)INSC
Inscuteableの略。分裂方向指示タンパク質の一つ。NUMA、GPSM2と複合体を作って細胞分裂の方向決めに関与する。その減少で垂直分裂が乱れる。

(6)GPSM2
G protein signaling modulator 2の略。分裂方向指示タンパク質の一つ。INSC、NUMAと複合体を作って、細胞分裂の方向決めに関与する。その減少で垂直分裂が乱れる。

 

本件に関する報道関係者の皆様からのお問合せ先

株式会社ファンケル 広報部 陣内真紀

TEL:045-226-1230 FAX:045-226-1202 / https://www.fancl.jp/laboratory/