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中学生の鉄欠乏状態を尿検査で発見できる可能性を確認
- ファンケルと東京都予防医学協会の共同研究成果 -

2023年5月25日PDF版はこちら

 株式会社ファンケルでは、健康状態を把握する方法の研究に取り組んでいます。これまでに、成人を対象とし、尿フェリチン1)を測定することで鉄分の充足状態を判定する方法を開発してきました2)。

 このたび、公益財団法人東京都予防医学協会(東京都新宿区、理事長:久布白兼行)3)との共同研究により、中学生の学校検診4)で行う尿検査において効率良くスクリーニング5)評価を取り入れ、問題となっている鉄不足(=鉄欠乏状態)を発見できる可能性を見いだしましたので、お知らせします。  

 尿フェリチン検査を使用し、思春期の子供における鉄欠乏状態のスクリーニング評価は、これまでに研究報告がなく、本研究が初めての報告となります。尿フェリチン検査は、非侵襲的6)で血液検査に比べて簡便にでき、鉄欠乏状態を早期に発見する可能性があります。この方法を活用することで、思春期におけるQOL(生活の質)、学習意欲の低下につながる鉄欠乏状態、貧血の予防に貢献すると考えています。

 当社では今後も、これらの成果を生かした新たなサービスや製品開発、検診での利用につながる研究を続けてまいります。 なお、本研究成果は、2023年4月に開催された第126回日本小児科学会学術集会(於:東京都港区)で発表しました。

 

<研究方法・結果>  

 学校検診で取得した東京都内の中学1年生から3年生の生徒562人(女子269人、男子293人)の血液および尿の検体を用い、鉄欠乏の鋭敏な指標であるフェリチン(血液検体から血清フェリチン、尿検体から尿フェリチン)を測定しました。 血清フェリチンの測定結果から、鉄欠乏者と非鉄欠乏者を分け、それぞれの該当者で尿フェリチンの数値を比較しました。さらに尿フェリチン検査による鉄欠乏状態を検出するスクリーニングの可能性も評価しました。

 

【血清フェリチンで各学年による鉄欠乏状態を調査】

 一般的に鉄欠乏状態と判定される血清フェリチンが12ng/mL未満の女子中学生の割合は、1年生が11.7%、2年生は17.2%、3年生では28.0%となり、学年が上がるとともに鉄欠乏と判定された学生が増加しました(図1)。

 思春期は急激な発育に伴い、鉄の需要が増加します。特に女子では月経により身体からの鉄の排出量が増加するため、鉄欠乏状態に陥りがちです。思春期の鉄欠乏は、記憶力や認知力の低下を起こす危険性も指摘されているため、鉄欠乏状態を早期に発見し、対策することが重要であると考えられます。

 

【尿フェリチンでも鉄欠乏状態の有無が推定できる可能性を示唆】

 次に、尿検査でも鉄欠乏状態の有無の推定が可能か確認しました。血清フェリチン12ng/mL未満を「鉄欠乏者」、それ以上を「非鉄欠乏者」とし、男女別に「鉄欠乏者」と「非鉄欠乏者」それぞれの尿フェリチン測定数値を調べました。その結果、男女ともに「鉄欠乏者」は「非鉄欠乏者」に比べ、尿フェリチンの平均値が有意に低いことが分かりました(図2)。

 このことから尿フェリチンを測定することで、鉄欠乏状態の有無を推定できる可能性が示されました。

【鉄欠乏状態を検出するスクリーニング方法としての可能性を確認】

 最後に、尿フェリチンが鉄欠乏状態のスクリーニングに有用であるかを検証しました。男女別に鉄欠乏の疑いを判定する尿フェリチン基準値(カットオフ値7))の算出を、尿フェリチンの測定結果より統計的に行い、基準値より高い場合を「鉄欠乏疑い無し」、低い場合を「鉄欠乏疑い有り」としました。  尿フェリチンの測定で、「鉄欠乏疑い有り」と判定された女子学生は68人、男子学生は66人、「鉄欠乏疑い無し」と判定された女子学生は201人、男子学生は227人でした。

 「鉄欠乏疑い無し」と判定された学生のうち、血清フェリチンの測定でも鉄欠乏状態でないと判定された「非鉄欠乏者」の割合(陰性的中率8))は、女子学生で98.2%、男子学生で94.0%と高値となりました(図3)。これにより、血清と尿のそれぞれの陰性判定には大きな乖離はないことが分かりました。

 鉄欠乏状態の判定は、従来血液検査で実施します。中学生など思春期での血液採取は、少なからず身体に負担がかかるため、事前にスクリーニングを実施することで、負担なく鉄欠乏者を見逃さない可能性が大きくなります。

 今回の調査では、すべての鉄欠乏者を判別するまでには至っていないものの、陰性的中率は高く、採血を不要とする尿フェリチン測定が鉄欠乏状態のスクリーニングには有用な方法である可能性が示唆されました。鉄欠乏によって引き起こされる不定愁訴9)は人によって症状はさまざまで、状態が進行するまで気付きにくいと言われています。今回の結果から、尿フェリチン検査の活用により、非侵襲的に鉄欠乏状態を早期に発見し、対処できる可能性が期待されます。

<研究背景・目的>  

 思春期の鉄欠乏は、記憶力や認知力の低下を起こす危険性が指摘されており、学校生活への影響も懸念されます。鉄欠乏状態は、血清フェリチンを測定することで判定されますが、静脈採血による検診は侵襲性を伴うため学校検診での導入・実施について進んでいないのが現状です。

 当社はこれまでの研究で、成人の尿フェリチンが血清フェリチンと相関することを確認し、非侵襲的な尿検査で鉄の充足状態を評価できることを確認しています。しかし、未成年者の鉄の充足状態が尿フェリチンで判定できるかについては調査できていませんでした。そこで中学生の血液および尿検体を用いて、未成年者においても非侵襲的な尿検査で鉄欠乏状態を把握することが可能か調査しました。

<今後の展開>

 尿フェリチンは鉄欠乏状態のスクリーニングに有用である可能性が示唆されました。学校検診では血液検査が任意項目であるのに対し、尿検査は必須項目であるため毎年全学校で実施されています。今後は、さらにスクリーニングの精度を高める研究を進め、学校検診や子供を対象とした栄養素提供サービスへの尿フェリチン検査の活用も検討してまいります。

 

【本研究顧問のコメント】 日本医科大学名誉教授 / 前田美穂氏

 中学生、高校生は、急激な身体の成長による鉄の需要の増加と女子においては月経の発来に伴う体外への鉄の漏出により、鉄欠乏が起こりやすい時期です。鉄欠乏は治療をしなければ鉄欠乏性貧血になりますし、貧血がなくても記銘力の低下や行動異常が起こると言われています。鉄欠乏は血清フェリチンの測定により診断できますが、昨今学校検診による血液検査は行いづらい状況です。そのために、以前より採血をしないで鉄欠乏状態を診断できる方法を模索してきました。

 今回尿フェリチンの測定が血清フェリチンと相関していることが判明しました。これにより学校検診でも採血を行わず採尿という侵襲のない方法で鉄欠乏状態を診断することが可能になります。尿フェリチンの鉄欠乏診断への利用は非常に画期的な方法であり、中学生、高校生の女子では25%にものぼる鉄欠乏状態の診断に大変寄与するものと思われます。

 

【用語説明】

1) フェリチン: 鉄を貯蔵するタンパク質。血清フェリチンは鉄欠乏の最も鋭敏な指標であり、血清フェリチン12ng/mL未満は鉄欠乏で鉄が枯渇している状態を示す(日本鉄バイオサイエンス学会 鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂[第3版] 6 鉄欠乏性貧血の診断・診断基準 より引用)

2) 参照リリース:尿から鉄分の充足状態が判定できる方法を開発 https://www.fancl.jp/laboratory/pdf/20200108_nyoukaratetubunnnozyuusokuhanntei.pdf

3) 東京都予防医学協会: 予防医学に関する知識の普及、疾病予防のための各種健診・検査、健康支援および健康教育等を通じ、人々の「生涯健康」「健康寿命の延伸」を目指し、健康と福祉の向上に努めることにより、社会に貢献する公益財団法人

4) 学校検診:毎年4~6月の時期に年1回行われる健康診断(学校保健安全法施行規則第5条)

5) スクリーニング:多数の中から特定の条件に合うものを選び出すこと

6) 非侵襲:生体を傷つけず、負担を与えないこと

7) カットオフ値: 検査による陽性と陰性を分ける値のことで、疾患があり検査陽性の割合と疾患がなく検査陰性の割合がそれぞれ高くなるように統計的に設定される値

8) 陰性的中率:検査結果が陰性である人のうち、実際に疾患がない人の割合。検査の確からしさを示す値

9) 不定愁訴:原因がはっきり分からないけれど、なんとなく体調が悪い状態のこと

 

本件に関する報道関係者の皆様からのお問合せ先

株式会社ファンケル 広報部 陣内真紀  TEL:045-226-1230 FAX:045-226-1202 / http://www.fancl.jp/laboratory/