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日常の継続的な摩擦刺激が皮膚の敏感性を高め
老化を促進するメカニズムを発見

2023年8月10日 PDF版はこちら

株式会社ファンケルは、皮膚刺激と老化に関する研究を進めています。今回、皮膚摩擦による肌ストレスに関する調査を行い、約97%の人が日常的に衛生用マスク、カミソリ、肌着、洋服、寝具などで摩擦刺激を感じていることが分かりました。さらに、日常の継続的な摩擦刺激を皮膚に与えることで、皮膚が過敏状態となり、老化を促進させるさまざまな因子に、変化が見られることを発見しましたのでお知らせします。

本研究成果は、第122回 日本皮膚科学会総会(2023年6月1日~4日 於:横浜)にて発表しました。

<研究背景と目的>

衣類や衛生用マスクなど日常の摩擦刺激に起因する皮膚感覚ストレスに関する報告は多くありましたが、皮膚内部の変化については、ほぼ解明ができていませんでした。そこで、日常に発生する摩擦に対する皮膚へのケアに役立つ情報を提供することを目的とし、摩擦刺激を与えた皮膚内部のタンパク質や遺伝子の変化を捉えるとともに、解決方法を探索するため本研究を行いました。

<研究方法と結果>

最初に20代から60代の138人(女性115人、男性23人)を対象とした摩擦に関する調査を実施し、約97%の人が日常的に何らかの摩擦刺激を感じると答え、刺激の要因は、衛生用マスク・カミソリ・肌着・洋服の順という結果が得られました。 そこで、日常的な摩擦刺激の影響を解明すべく、これらの摩擦刺激が皮膚表面に与える平均動摩擦係数1)を測定して摩擦刺激の強度指標、低摩擦刺激と中摩擦刺激を設定しました。この強度指標で、ヒト摘出皮膚組織2)にそれぞれ3回ずつ繰り返し摩擦刺激を与え、皮膚組織が分泌するタンパク質、および皮膚組織内部の遺伝子とタンパク質の変化を評価しました。

*低摩擦刺激:平均動摩擦係数0.32μk、衛生用マスクや肌着が皮膚表面で発生する摩擦刺激強度に相当
*中摩擦刺激:平均動摩擦係数0.98μk、あかすりミトンなど硬めの物質が皮膚表面で発生する摩擦刺激強度に相当

【結果その➀】
摩擦刺激が皮膚の刺激を感じるセンサーを増やし、過敏状態にする

皮膚組織に摩擦刺激を与え、皮膚に存在し、皮膚感覚に関わるTRPV1、TRPV23)の遺伝子発現を確認しました。両因子は、熱や化学的・機械的な刺激を感受して活性化し、情報を伝えるセンサーとして重要な働きを担っています。 結果は、摩擦刺激の強度に応じ、TRPV1、TRPV2の各遺伝子発現量が有意に増加しました(図1)。このことから、日常的な摩擦刺激が、皮膚の刺激に対する感受性を高め、皮膚をより敏感にすることが示唆されました。

【結果その②】
摩擦刺激が炎症因子や細胞外マトリックス分解酵素の分泌を促進する

次に、摩擦刺激を与えた皮膚組織から分泌されるタンパク質の評価をしました。皮膚の炎症を引き起こす炎症性サイトカイン4)およびコラーゲンなどを分解する細胞外マトリックス分解酵素5)(MMP-2、-9)が、中摩擦刺激により有意に増加したことを確認しました(図2)。この結果から、日常的な摩擦刺激が、皮膚の炎症状態を引き起こし、コラーゲン分解を促進することで皮膚老化につながる可能性があることが分かりました。

【結果その③】
摩擦刺激が皮膚の基底膜コラーゲンを減少させる

最後に、摩擦刺激を与えた皮膚組織を用い、表皮と真皮の結合部位に存在し、シワやたるみに影響することが知られている基底膜タンパク質の状態を確認しました。その結果、摩擦刺激により、基底膜タンパク質である「4型コラーゲン(赤色)」、および「7型コラーゲン(紫色)」が減少することを確認しました(図3)。 【結果まとめ】 以上の結果より、日常の継続的摩擦刺激で、皮膚はより敏感に刺激を感じやすくなること、皮膚内部に炎症を起こすこと、表皮と真皮の結合を弱めシワやたるみなどの皮膚老化兆候につながることが示唆されました。

<今後の展開>

これらの結果を踏まえ、今後は皮膚表面に汗や皮脂が分泌された状態で、摩擦による肌への影響を研究する必要があると考えています。また、摩擦刺激で増加するTRPV1、TRPV2などの刺激センサーや、炎症性サイトカイン、細胞外マトリックス分解酵素などをターゲットにした対応素材などの研究も行ってまいります。 さらに研究を進め、摩擦刺激による肌ストレスを緩和するとともに、皮膚内部に生じるタメージをケアし、皮膚老化の改善も期待できるスキンケア製品やサービスにつなげていきたいと考えています。

 

【用語説明】

1) 平均動摩擦係数: 一定の時間内、皮膚に接触した物質が皮膚表面をこする時の摩擦力を指します。皮膚表面の状態(キメ、皮脂、汗の分泌状況など)、接触物質の性質(硬さなど)、こする時の圧力などの影響を受けます。

2) ヒト摘出皮膚組織:本研究は、ヘルシンキ宣言の倫理的原則に基づき、倫理的配慮のもとに提供された術後の余剰皮膚組織を用いて行っております。

3) TRPV1、TRPV2: 皮膚にも存在し、化学物質、温度上昇、pHの変化、機械刺激、浸透圧の変化などの物理・化学的な刺激で活性化し、感覚神経を通じて脳に情報を伝達する刺激センサー。

4) 炎症性サイトカイン:細胞から分泌され、炎症反応を誘導するタンパク質の総称。

5) 細胞外マトリックス分解酵素: コラーゲンやエラスチンを分解する酵素で、MMP-2、とMMP-9は主に基底膜コラーゲンを分解します。

本件に関する報道関係者の皆様からのお問合せ先

株式会社ファンケル 広報部 Tel:045-226-1230  Fax:045-226-1202 http://www.fancl.jp/laboratory/