BEAUTY09「コラーゲンコントロール」
へのアプローチ

コラーゲンコントロール研究

  • ビューティサイエンス研究センター鈴木 民恵
  • ビューティサイエンス研究センター蔀 泰幸
  • ビューティサイエンス研究センター枝 亜希子

2019年3月時点

コラーゲンを生み出す力と守る力

ハリや弾力がある健康な肌を保つために重要なコラーゲン。しかし、コラーゲンは、年齢とともに減少します。ファンケルでは、加齢によって衰えるコラーゲンの構造に着目し、「コラーゲンコントロール」の研究に取り組んでいます。

老化した肌では、コラーゲン量の減少だけでなく質も悪くなっていることを発見

無添加化粧品を生み出してきたファンケルは、紫外線などの強い肌ストレスだけでなく、皮膚をとりまく環境、たとえば、化粧品中の添加物や空気中のナノ粒子など微細なストレスが肌の老化に影響を与えていることに着目して、研究を進めてきました。紫外線によって発生する活性酸素は、皮膚細胞のDNAを傷つけ、肌細胞の老化を加速させます。このような老化の大敵である活性酸素をコラーゲンを生み出す細胞に与えて培養すると、細胞の形が変形し、コラーゲン産生力が低下することがわかりました※図1
コラーゲンの減少の原因は、加齢によるコラーゲン産生力の低下だけではなく、様々なストレス、特に気づかない日々のストレスの蓄積にも原因があったのです。

活性酸素処理によるコラーゲン産生能力の低下(図1)

活性酸素処理によるコラーゲン産生能力の低下

【測定方法】

皮膚線維芽細胞へ酸化ストレス(活性酸素)を負荷して培養し、細胞形とコラーゲン量の変化を測定した。

結果

皮膚線維芽細胞に酸化ストレスを負荷させると、細胞形態が細く扁平化し、コラーゲンタンパクの減少が確認された。

このようなストレスを受けながらも、20代30代のうちは、肌表面に個人差が少ないのですが、40代以降になると、肌表面にその違いが顕在化するようになり、シワの深さに個人差が生じてきます。

そこで、ファンケルでは、このシワの個人差を生む『皮膚の中で起こる変化』に着目し、皮膚の内部を調べる「皮膚の透明化技術」を用いた研究を進めました。皮膚内部を分析すると、若い皮膚ではコラーゲンを支えるエラスチン線維束が太く直線的で皮膚をしっかりと支えているのに対し、加齢した皮膚では湾曲化してしまいます※図2。このエラスチン線維の周りに充満して皮膚を支えているのがコラーゲン線維ですが、若い皮膚ではコラーゲン線維束とエラスチン線維が密に組み合わさっているのに対し、加齢した皮膚では、コラーゲン線維束が断片化し、エラスチン線維との隙間が開いてしまうことがわかりました※図2。すなわち、弾力性の維持にはコラーゲンの量を増やすだけではなく、線維束として、形を維持することも重要であり、量だけでなく「コラーゲンやエラスチンの質を高める」ケアも必要だと考えました。

年齢による皮膚コラーゲンおよびエラスチンの構造変化(図2)

年齢による皮膚コラーゲンおよびエラスチンの構造変化

【測定方法】

20代(左)と60代(右)の腹部皮膚片を蛍光抗体で染色し、特殊な試薬を用いて透明化した後、共通点顕微鏡でコラーゲン線維やエラスチン線維を観察した。

結果

加齢によりコラーゲン線維束の断片化が認められ、弾性線維の直線性や分岐状態の変化が認められた。

形の良いコラーゲンを生み出す
独自成分「適応型コラーゲンα」の開発

研究員

まず私たちが最初に取り組んだのが、コラーゲン線維の形の研究でした。皮膚には9種類のコラーゲンが存在しますが、I型が77%、Ⅲ型が18%を占めています。コラーゲン線維を構成しているのは、このⅠ型、Ⅲ型ですが、今回、私たちが注目したのは、その次に多いながらもわずか5%未満しかないⅤ型コラーゲン。Ⅴ型がないコラーゲン線維は、大きさや形が不揃いであるのに対して、Ⅴ型があるコラーゲン線維は、規則正しく配列され、とても強靭なものになることに着目したのです。つまりⅤ型コラーゲンは、その量は少なくても、Ⅰ型とⅢ型のコラーゲンを束ねるという重要な役割をしています。
そこで私たちは、Ⅰ型・Ⅲ型のコラーゲンを増やす目的で従来の製品にも使われていた独自成分「適応型コラーゲン」の改良に着手。分子レベルで構造を変えることで、Ⅰ型・Ⅲ型に加えてⅤ型コラーゲンも増やす新たな独自成分「適応型コラーゲンα」を開発することに成功しました。

コラーゲン線維の再構築を促す「月見草エキス」

次に取り組んだのが、コラーゲン線維を再構築する修復機能の研究です。コラーゲンが紫外線などの外敵要因でダメージを受けると、それを認識して線維芽細胞にコラーゲンを新たに生み出すよう指令を出すタンパク質「ダメージセンサー(DDR2)」が存在します。DDR2が老化によって減少すると新しいコラーゲンが産生されにくくなり、またDDR2を増やすことコラーゲンの産生が促進され、線維の再構築が促進されることを見出しました。そこで皮膚細胞のDDR2を増やす成分を探索した結果、古来よりエジプトやヨーロッパで薬草やハーブとして使われていた「月見草エキス」にその効果があることを発見しました※図3
これにより『質』の髙いコラーゲンを再生することが期待できます。

コラーゲン線維形成に及ぼす月見草エキスの影響(図3)

活性酸素処理によるコラーゲン産生能力の低下

【測定方法】

皮膚線維芽細胞にコントロール溶液または月見草エキスを処理して、長時間培養した。細胞外表面に形成されたコラーゲン線維束を蛍光抗体で染色し、顕微鏡で観察した。

結果

線維芽細胞に同じ時間だけコラーゲン線維を作らせると通常の細胞の状態(無添加)では、ほとんどコラーゲンの細く白い線維束では見えないが、月見草エキスを添加した細胞では白いコラーゲン線維束が見られた。

コラーゲン線維の破壊を防ぐ「VPエキス」

20~30代にもっとも多い肌の悩みに「毛穴開き」があります。私たちは今回、20~30代の肌の毛穴が開くメカニズムも検討しました。皮膚内部のコラーゲン線維を視る共焦点レーザー生体顕微鏡※1で毛穴部分観察してみると、毛穴が引き締まった皮膚では毛穴周囲のコラーゲン線維が太く、毛穴が開いてしまった皮膚ではコラーゲン線維が細いという違いがあることがわかりました。そこで毛穴で作られる皮脂が一因となってコラーゲン線維の形成に影響しているではないかと考え、細胞レベルで実験しました。その結果、紫外線や皮脂の過剰分泌などの肌ストレスで皮膚に炎症が起こると、皮脂の量を調整するタンパク質「皮脂腺コントローラー(FABP5)」が著しく増加してしまい、コラーゲンの破壊を促していることを見出しました※図4
そこで、「皮脂腺コントローラー」の過剰分泌を抑制する物質を検討したところ、ビタミンPに含まれる物質にその効果があることがわかりました。さらに500種類ほどの成分を検討した結果、ビタミンPが多く含まれる植物成分「VPエキス」を発見したのです。

皮脂腺コントローラー(FABP5)添加による炎症促進およびコラーゲン分解促進(図4)

結果

FABP5を添加すると、炎症に関わるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP9)が増加し、それによりコラーゲンが分解される。

研究員

コラーゲンの量だけではなく、質を高めることに着目したファンケルの「コラーゲンコントロール研究」。
それは長年、「無添加アンチストレスサイエンス」に取り組んできた私たちファンケルならではのユニークな発想により生まれました。今回紹介した技術は当社の新開発商品に役立てています。
今後は、「コラーゲンコントロール」の鍵となるタンパク質を特定するなどさらなる研究に取り組んでまいります。

用語解説

  1. 共焦点レーザー生体顕微鏡皮膚など観察部位にレンズをあてるだけで、組織を切り取ったり染色することなくリアルタイムに細胞レベルで画像化する生体顕微鏡。