老化調整のキータンパクIL-1RA
~細胞増殖の停止を防ぐメカニズムを発見~

ビューティサイエンス研究センター 
禹 幸玉

POINT

  • Interleukin 1 receptor antagonist 「以下IL-1RAと表記」※1タンパクに、皮膚老化を調整する機能があることを発見
  1. 細胞増殖の停止を防ぎ、細胞周期※2やエネルギー産生※3を促進
  2. 基底膜コラーゲン※4(Ⅳ型、Ⅶ型)の産生を促進
  3. IL-1RAを高める成分を発見

加齢による皮膚のターンオーバーの低下

皮膚のターンオーバーは、表皮角化細胞が皮膚の基底層で増殖し、約一ヶ月の期間を経て生まれ変わることです。年齢とともにその期間は長くなり、老年では若年の1.5倍から2倍の時間がかかると言われています。
このターンオーバーによって剥がれていく角層細胞には、肌状態に関係するタンパク質が含まれています。ファンケルでは、頬に貼ったテープ1枚から角層のタンパク質を抽出し、個人個人異なる肌老化リスクや肌状態を知る「角層バイオマーカー」を開発してきました。なかでも、「IL-1RA」は、加齢によって減少すること※図1、角層のIL-1RA量が多いほど肌のキメが整って、弾力が高いこと※図2から、皮膚の老化とIL-1RAタンパクが関わることが考えられました。そこで、新しいアンチエイジング化粧品の開発をめざし、IL-1RAの機能について研究を進めました。

IL-1RA増加による細胞活性

まず、IL-1RAタンパクを細胞に添加し、細胞の老化を防ぐことができるか検討しました。その結果、IL-1RAタンパクを添加した表皮角化細胞では、細胞内エネルギー産生量が増加し※図3、基底膜を構成するIV型コラーゲン、VII型コラーゲンのタンパク発現が増えることが分かりました※図4

IL-1RA減少による細胞老化

次に、人工的にIL-1RAを減少させた表皮角化細胞を作成し、老化の指標としてp21タンパク※5及びコラーゲンを分解する細胞外マトリックス分解酵素※6の変化を比較しました。その結果、IL-1RAが少ない細胞では、細胞の増殖を抑制するp21タンパクが増加し、表皮と真皮のコラーゲンを分解する酵素 MMP-2の発現量が増加しました※図5

p21タンパクが増えると、細胞増殖が抑制され老化を引き起こし、さらに細胞外マトリックス分解酵素の増加は、コラーゲンを分解することで弾力を失い、シワにつながります。このことにより、IL-1RAの減少は細胞老化を加速し、皮膚老化を招く原因になると考えられました。

「IL-1RA」 タンパクの皮膚中の機能

以上の結果より、IL-1RAが老化の原因となる細胞増殖の停止を防ぎ、エネルギー産生を促進し、基底膜構造を維持することで、皮膚のアンチエイジングにとても重要であることが分かりました。

IL-1RAを増加させる成分の探索

そこで、皮膚中のIL-1RAを増加させるアンチエイジング成分を探索しました。その結果、ハス胚芽エキス及び酵母抽出液が表皮角化細胞の「IL-1RA」量を増加させることを見出しました※図6

本研究の成果

以上のように、IL-1RAは、皮膚細胞の老化調整に重要であり、日内周期(サーカディアンリズム)をもつことも明らかになってきたことから、皮膚の恒常性維持に重要な役割を担っていることが明らかになってきました。これらの研究成果は、第17回日本抗加齢医学会及び第36回日本美容皮膚科学会総会で発表しました。そして、角層のバイオマーカーの一つとして、カウンセリング及び商品化に応用しています。
今後は、加齢によるIL-1RA減少がもたらす肌のターンオーバーへの影響について研究をかさね、より効果の高いアンチエイジング化粧品の開発を進めてまいります。

用語解説

  1. Interleukin 1 receptor antagonist 「以下IL-1RA」身体の炎症時に増加し、炎症反応を抑える機能を持つタンパクである。角層ではシミ・弾力などの老化兆候に関係するとされる。
  2. 細胞周期 細胞が増えるときに、ひとつの細胞がふたつの娘細胞を生み出す過程で起こる一連の現象であり、細胞周期が停止すると分裂しない状態で老化に進むため、老化の原因になる。
  3. エネルギー産生 細胞のエネルギー産生はミトコンドリアという細胞内小器官で行われているATPの産生を意味する。細胞のさまざまな活動に必要なエネルギーをミトコンドリアで供給するが、この活性化が弱くなると新陳代謝が落ち、老化の原因となる。加齢による自然老化の原因の一つである。
  4. 基底膜コラーゲン 皮膚の表皮と真皮の間に存在する膜で、代表的な成分はIV型コラーゲン、VII型コラーゲン、ラミニンなどがある。この表皮の土台となる基底膜構造が破壊されると表皮細胞のターンオーバーが遅くなり、シミ・シワが増えると言われている。
  5. p21タンパク 様々なストレスによってDNA損傷時に増加するタンパクで、細胞周期の停止に働き、老化を誘導する。このタンパクの増加は細胞老化の目安とされ、老化指標の一つである。
  6. 細胞外マトリックス分解酵素 Matrix metalloproteinase (略称 MMPs)。細胞外組織コラーゲン、エラスチンなどを分解する酵素で、皮膚ではMMP-1, MMP-2, MMP-9の機能がよく知られている。その中、MMP-2はIV型コラーゲンなど主に基底膜構造を維持するタンパクを分解する機能がある。