角層バイオマーカー解析で頭皮疾患によるタンパク質量の違いを発見

ビューティサイエンス研究センター

POINT

  • DJー1を含む5種類のタンパク質量を測定した結果、アトピー性皮膚炎、乾癬、円形脱毛症などの疾患によって検出タンパク質量が違うことを発見しました。
  • 本技術は、角層バイオマーカー解析※1による頭皮状態の客観的な評価に期待できる。

角層中のタンパク質を測定する「角層バイオマーカー解析」を開発し、皮膚の状態などを把握することに活用してきました。その中で、角層バイオマーカーの一つであるタンパク質DJ-1※2が頭皮の育毛環境に重要な役割を果たす可能性を報告しています。
今回、アトピー性皮膚炎をはじめ、乾癬(かんせん)※3、円形脱毛症といった疾患を持つ方の頭皮で、頭皮環境と関連性があると考えられるDJ-1を含む5種類のタンパク質量を角層バイオマーカー解析で測定した結果、疾患によって検出されるタンパク質量が違うことを発見しました。これにより、頭皮におけるバリア機能の状態や炎症、酸化ストレスの防御力などを角層バイオマーカー解析で客観的に評価できることが期待されます。
なお、本研究成果は「第119回日本皮膚科学会総会」で発表しました。

<研究の背景と目的>

これまで頭皮の角層において、角層バイオマーカーの一つであるタンパク質DJ-1が頭皮の育毛環境リスクを評価できることを報告してきました。このような頭皮環境の客観的な評価方法は、加齢や病態により変化する症状を捉えて、治療や予防に貢献できると考えられます。しかし、頭皮を非侵襲(ひしんしゅう)※4的に測定可能な機器は少なく、また毛髪の影響により再現性が低いことが課題となっています。このような健康な頭皮における知見を踏まえて、頭皮環境の悪化が見られる疾患者の頭皮に着目して、頭皮状態とタンパク質の関係が見られるか検討しました。本研究では、DJ-1のほかにも炎症やバリアに関連するタンパク質であるHSP27を含む複数のタンパク質を角層バイオマーカー解析で測定し、新たな頭皮状態評価法への応用を期待して実施しました。

<研究方法と結果>
■ 角層バイオマーカー解析で、頭皮における5種類のタンパク質量が疾患によって異なることを確認

重症度の異なるアトピー性皮膚炎患者(以下、AD群)、乾癬(かんせん)患者(以下、乾癬群)および円形脱毛症患者(以下、AA群)を対象に、5種類の角層バイオマーカーであるタンパク質、HSP27※5、GAL-7※6、DJ-1、IL-1RA※7、NGAL※8の量を測定し、頭皮状態との関連性を解析しました。その結果、疾患の種類によってタンパク質の検出量が異なり、検出量をチャート化したパターンが、それぞれ異なるパターンの形を示すことが分かりました※図1

また、健康な頭皮と統計的な有意差検定※9により比較を行った結果、これらの頭皮疾患における各タンパク質量は、健康な頭皮とは異なることを示しました※表1。顔や体のバリア機能が低下しやすいAD群は、頭皮でもバリア機能の低下時に増加するGAL-7や炎症時に増加するHSP27が高値を示し、バリア機能がぜい弱であることが分かりました。乾癬(かんせん)群は健康な頭皮のGAL-7と比較しても変化が少なく、バリア機能に相違はないと考えられます。AA群では、細胞活性に関わるIL-1RAの量が低下して毛根が休止期であること、また、抗酸化力を有するタンパク質DJ-1の量も低下していることから、酸化ストレスに対してもぜい弱である可能性が示されました。

これらのことから、5種類の角層バイオマーカーであるタンパク質の測定によって、頭皮のバリア機能、炎症や酸化ストレス防御などの状態を客観的に評価できることが期待できます。

<今後の展開>

本研究では、頭皮において複数のタンパク質が、疾患に由来するバリア機能、炎症や酸化ストレス防御力といった頭皮状態を客観的に評価できる可能性を発見しました。今後、頭皮の状況をさらに詳細に捉えるために、疾患頭皮のデータ数を増やして、年齢を考慮した解析や重症度別および治療前後の比較を行うことを考えております。これにより、角層バイオマーカー解析を用いた疾患頭皮の頭皮状態および毛髪環境の基礎知見として研究を進め、頭皮ケアや育毛ケアなど幅広い活用を進めてまいります。

用語解説

  1. 角層バイオマーカー解析皮膚に貼った1枚のテープから取れた角層のタンパク質を分析し、一人ひとり異なる肌状態や老化リスクを解析する当社独自の測定技術。現在の肌状態や将来的な肌トラブルを予測するカウンセリングや製品提供に活用。
  2. DJ-1紫外線によるストレスで生じる活性酸素を消去するタンパク質。シミやシワ形成へ大きな影響を与えることから、光老化リスクを表すタンパク質。
  3. 乾癬(かんせん)乾癬は皮膚に炎症による紅斑が出て慢性の経過をとる病気。皮膚から少し盛り上がった赤い発疹の上に、銀白色のフケのようなものがくっついてポロポロとはがれ落ちる症状が見られ、頭皮や髪の生え際、ひじ、ひざなど機械的な刺激を受けやすいところに出やすい傾向がある。
  4. 非侵襲(ひしんしゅう)痛みや苦痛などを与えないこと。角層バイオマーカー解析は、テープ1枚を頭皮に貼って採取したタンパク質を測定することから、痛みを伴わない測定方法だと考えられる。
  5. HSP27熱ストレス、紫外線、活性酸素種などの外的ストレスにより変性したタンパク質を修復し、生体恒常性維持に関与するタンパク質。
  6. GAL-7細胞同士の接着に関連するタンパク質。GAL-7量は、経皮水分蒸散量と相関し、皮膚のバリア性を評価できることから、乾燥リスクを表すタンパク質として角層バイオマーカー解析の指標の一つとしている。
  7. IL-1RA身体の炎症時に増加し、正常化させる機能を持つ抗炎症性サイトカインで、細胞の増殖を促進するタンパク質。
  8. NGAL表皮細胞から産生されるタンパク質で、細菌の増殖を抑制するため、細菌感染における自然免疫応答で重要であると考えられ、急性腎不全や尋常性痤瘡(ニキビ)などへの関与が報告されている。
  9. 有意差検定ある群とある群の差のずれが単なる偶然による誤差の範囲内なのか、それとも誤差では済まされない意味のあるものかを確認すること。後者であると考えられる場合、そのずれは「有意」であるとされる。