効果を高める技術

コラーゲンの分泌を速める新素材「エクトイン」を発見
コラーゲンが分泌する“速さ”に着目シワやたるみを防ぐ新しいアプローチに

POINT

  • コラーゲンの分泌を速める新たな素材として「エクトイン」を発見しました。
  • 素早く真皮内でコラーゲンを作ることで、シワやたるみを防ぐという新しいアプローチが期待されます。

シワやたるみのメカニズムの解明の一つとして、加齢によりコラーゲンの「量」が減少するだけでなく、形などの「質」が変化することにまで着目して研究を進めています。 真皮内のコラーゲンは、線維芽細胞※1内で作られたコラーゲンがコラーゲン線維となって存在しています。コラーゲン線維を作る材料のコラーゲンを速やかに線維芽細胞の外へ分泌し、真皮のコラーゲン産生を円滑にすることが、コラーゲン線維の形成、つまりコラーゲンの「質」を高められると考えました。そこで、コラーゲンの分泌を速める新たな素材として「エクトイン」※2を発見しました。本知見から、素早く真皮内でコラーゲンを作り、シワやたるみを防ぐという新しいアプローチが期待されます。なお、本研究成果の一部は、第53回結合組織学会学術大会にて発表しました。

<研究背景•目的>

コラーゲンは、皮膚にハリと弾力を与える真皮の重要な組織であり、コラーゲンの機能維持がシワ予防および改善に重要です。しかし、コラーゲンは加齢とともに減少、断片化※3して「質」も変化することが知られています。
さらに、コラーゲンは「紫外線」や「ストレスによる活性酸素」などの影響で、常にダメージを受ける環境下に存在します。そのため、ダメージを受ける前に素早く生み出すことが大切だと考えました。そこで、コラーゲンの産生量だけではなく、分泌される速さに着目し、素材を探索しました。

<研究方法と結果>

【「エクトイン」は短時間でのコラーゲン分泌量を増加させる】

線維芽細胞を用いて、短時間で細胞の外に分泌させる成分 の探索をしました。その結果、「エクトイン」を添加した場合、直後から無処理のものと比較してコラーゲン分泌が徐々に促進され、時間の経過に伴い分泌量が最大約 8 倍も増加する結果を得られました※図1。この結果から、「エクトイン」がコラーゲンの分泌を促す効果があることが分かりました。

【「エクトイン」は細胞のコラーゲン輸送過程で重要なタンパク質Prebを増加させる】

次に「エクトイン」によるコラーゲン分泌促進作用が、どのようなメカニズムで起きているかを調べました。方法は、線維芽細胞に「エクトイン」を添加し、細胞の中で作られたコラーゲンを細胞の外へ輸送する際に必要となる小胞輸送関 連タンパク質※4の量を確認しました。その結果、いくつか輸送に関連する小胞輸送関連タンパク質の中で、一番最初に働き、起点となるタンパク質「Preb※5」を増加させることが分かりました※図2。以上のことより、「エクトイン」がコラーゲン分泌の起点であるPrebを増加させ、細胞の外へコラーゲン分泌を素早く促していることを発見できました。

【「エクトイン」はコラーゲン線維形成を促進させる】

最後にコラーゲン線維の形成促進効果について確認しました。線維芽細胞に「エクトイン」を添加して 13 日間培養すると、「エクトイン」を添加した細胞はコラーゲン線維が無添加と比較し、非常に多く形成されていることが分 かりました※3

【まとめ】

以上の結果から、「エクトイン」は皮膚の線維芽細胞に働き、コラーゲンの分泌速度を上げて線維形成を促進す ることで、真皮のコラーゲンの「質」を高めてシワやたるみを予防するという新しいアプローチに寄与することが示唆されます。

<本研究成果による製品開発>

本研究で得られた成果は、これまでの当社の肌本来の機能を高めるコラーゲン研究の進化として、コラーゲン の修復に働くコラーゲン受容体や、コラーゲンの線維束をまとめるV型コラーゲンに加え、コラーゲンを素早く生み出すコラーゲン分泌へのアプローチを研究して製品化に応用してきました。
今後もさらに研究を進め、コラーゲンの「質」を高める新しいコンセプトのアンチエイジング化粧品の開発に努めて参ります。

用語解説

  1. 線維芽細胞真皮に存在する細胞で、コラーゲンやエラスチンなどを産生する細胞
  2. エクトイン化学式:C6H10N2O2 環状アミノ酸の一種。
  3. 断片化コラーゲンなどのタンパク質はアミノ酸が結合して構成されているが、その結合が切れて短くなること
  4. 小胞輸送関連タンパク質細胞内で作られた小胞内のタンパク質が細胞外へ輸送される。この小胞(袋状の構造)の輸送に関連する タンパク質
  5. Preb(Prolactin regulatory element bindhing protein) 別名:Sec12 小胞における輸送を開始する際に、活性化されるタンパク質で小胞輸送の起点となる

<参考情報>

【防腐剤や炎症により減少したコラーゲン分泌を回復】

線維芽細胞に、化粧品で一般的に使用されるメチルパラベンや炎症性物質のIL-1α※を添加したものと、同時に「エクトイン」も添加したものをコントロールと比較して一定のコラーゲンが分泌するまでの時間変化を確認しま した。その結果、メチルパラベンや炎症性物質の添加によって遅くなってしまったコラーゲンの分泌を、「エクトイン」により回復することが分かりました(下図)。
※さまざまな炎症に関与する炎症性サイトカイン(細胞から分泌される生理活性物質)の一種。