肌・健康の測定技術

非侵襲による“エラスチンの可視化技術”を導入 シワ部位のエラスチンの「質」低下を発見 ― 新たなシワやたるみ対策に応用 ―

POINT

  • フェムト秒レーザー※1搭載の最新機器技術を導入して肌を傷つけることなく、肌内部のエラスチン線維の状態を可視化の観察に成功しました。
  • 年齢によるエラスチン線維の質を表す形状の違いや肌表面のシワとの関係に関する知見を得ることができました。

シワやたるみのメカニズムの解明の一つとして、加齢によりエラスチンの「量」が減少するだけでなく、形などの「質」が変化することにまで着目して研究を行っています。 肌内部にあるエラスチン線維は、肉眼で見ることのできないため、肌を傷つけずに直接観察をして加齢によりどのような変化をするかという検証は非常に難しいことでした。しかしこのたび、フェムト秒レーザー搭載の最新機器技術を導入して肌を傷つけることなく、肌内部のエラスチン線維の状態を可視化の観察に成功しました。その結果、年齢によるエラスチン線維の質を表す形状の違いや肌表面のシワとの関係に関する知見を得ることができました。本知見は、シワやたるみ研究において、さらなる発展が期待できるものと考えています。

<研究背景•目的>

当社ではこれまで、透明化した皮膚組織を三次元的に構造解析※2し、加齢に伴うエラスチン線維の構造変化の詳細について明らかにしてきました。しかし、実際の生きている人間の内部構造での変化については解明できておりませんでした。今回、新たにMPT Compact※3を導入することにより、これまで困難であった生体におけるエラスチン線維の状態を観察し、年齢による違いやシワとの関係について検証することとしました。

<研究方法•結果>

【MPT Compactによる非侵襲的方法でエラスチン線維の形状観察年齢による違いを発見】
エラスチン線維は皮膚の真皮の上層に存在し、従来の技術では、生きている人間の皮膚内部にあるエラスチン線維を観察することは困難でした。そこでレーザー光を走査※4させることにより、皮膚内部の細胞小器官やエラスチン線維から自家蛍光※5画像を得られる顕微鏡であるMPT Compactを導入し、エラスチン線維を直接観察することに成功しました。その結果、エラスチン線維の「質」を表す形状はさまざまな状態で存在し、年齢によって異なることが分かりました。若い人のエラスチン線維は、細くて直線的に網目構造を保ちながら存在していることが多かったことに対し、年齢を重ねるごとにエラスチン線維は、太く縮れて断裂し、網目構造を保てなくなっていることを発見しました※図1

そこで、エラスチン線維の「質」を年代別に明確にするため、20代から60代の女性35人を対象に目尻のエラスチン線維を観察し、線維の太さと網目構造の視点でスコア化して比較しました。その結果、加齢に伴いエラスチンスコアが低下し、エラスチン線維の「質」が低下していることが分かりました※図2

エラスチン線維の観察とともに、目尻のレプリカを採取し、シワの目視判定を行いました。これにより得られた結果をスコア化し、シワスコアとエラスチンスコアの関係を調べました。その結果、シワスコアとエラスチンスコアには相関が認められ、エラスチン線維の「質」が低下するほどシワが多くなることが分かりました※図3

これらの結果から、加齢によりエラスチン線維の「質」の低下が、シワなどの老化兆候に起因していることが生体内観察において初めて確認することができました。

<本研究成果による製品開発>

この新たな技術により、今後さまざまな年代におけるエラスチン線維の解析を行うことで、それぞれの状態に最適なスキンケアアプローチが提案できるようになることが期待されます。また、スキンケアによる肌変化の一つの指 標として、エラスチン線維の変化を捉えることが可能となります。今後も加齢による線維構造の変化の要因に関する研究を進め、次世代のアンチエイジング化粧品の研究開発を進めてまいります。

用語解説

  1. フェムト秒レーザー フェムト(1×10-15)秒という超短いパルス幅を持つパルスレーザー(超短パルスレーザー)。
  2. 三次元構造解析手法 組織の透明化により 3 次元的に撮影した画像を、画像処理や画像演算で形状の各パラメータで計測する方法。
  3. MPT Compact (Multiphoton Tomography Compact: JenLab社) 皮膚組織を非侵襲的に表皮から上層真皮まで断層画像で見ることができる。フェムトセカンドファイバーレーザ 780nmを使用し、セカンド ハーモニック ジェネレーション(SHG)によるコラーゲン画像と、自家蛍光によりエラスチン画像が同時に得られる。「コラーゲン」と「エラスチン」を非侵襲で分離観察することができる。
  4. 走査 画像を多くの点や線状に分解し、それぞれの輝度•色相•色度などを順次に電気信号に変換すること。また逆 に、受像機で電気信号を画像に組み立てること。
  5. 自家蛍光 エラスチン線維やコラーゲン線維のような生物学的構造が、光を吸収した際に起こる光の自然放出(フォトルミネセンス)。