POINT
- ヒト皮膚を長期培養する技術の開発。
- その技術を基に摘出皮膚を、立体的(3D)および動的な変化(4D)の観察に成功しました。
株式会社ファンケルは、摘出した時の状態を保ちながらヒト皮膚を長期培養する技術の開発と、さらにその技術を基に摘出皮膚を、立体的(3D)および動的な変化(4D)の観察(以後、4Dイメージングと表記)に成功しました。本研究は、北里大学医学部 形成外科・美容外科学との共同研究、およびシンクランド株式会社からの協力を得ています。
今回成功した摘出皮膚の4Dイメージングは、皮膚内部で生じるさまざまな現象の経過を細胞レベルで観察および解析することを可能にします。これを生かし、皮膚における種々の不調のメカニズム解明に応用して不調を改善する製品の開発を進めてまいります。
なお、本成果について、米国テキサス州ダラスで行われた 2024 年 Society for Investigative Dermatology
2024 Annual Meeting(2024 年米国研究皮膚科学会)の Mini-Symposium にて発表しました。
<研究背景•目的>
当社では、摘出した皮膚の内部を立体的に観察および解析する技術を開発し†1、弾性線維※2の加齢変化†2-3 やチオレドキシンによる弾性線維†4への影響について調べてまいりました。これらの技術は、皮膚内部の立体的な構造を知るための画期的な技術ですが、観察の際に組織固定※3 をする必要があるため、静止画のみの観察に限るという課題がありました。そのため、肌内部で起きているさまざまな現象について、経時による直接観察をすることはできませんでした。 本研究では、摘出した皮膚の新しい培養方法を考案し、摘出した皮膚を通常のヒト生体皮膚に近い状態に維持し、経時観察を可能にすることを目的としました。
<研究方法•結果>
マイクロニードル※4を用いた摘出皮膚の長期培養方法を開発
ヒト皮膚を摘出時と同じ状態に保てるよう、摘出皮膚の長期培養方法を検討しました。通常の培養方法は、皮膚の深部から培地を吸い上げる方法※図1/左で行います。しかし、この方法では摘出皮膚の内部に栄養などが届かず、壊死してしまうという課題がありました。そこで、摘出皮膚の内部に栄養などが届くように、摘出皮膚の上からマイクロニードルを刺して皮膚内部に栄養を届ける方法※図1/右を考案しました。

通常の培養方法とマイクロニードルを用いた培養方法による摘出皮膚の培養状態の違いを知るために、それぞれ 11 日間培養し、細胞毒性と炎症状態※5を評価しました。
その結果、通常の培養方法は、培地中の細胞毒性および炎症の指標が、摘出後に比べて大きく増加したのに対し、マイクロニードルの培養方法は、培地中の細胞毒性および炎症の指標が抑えられていました※図2。
このことから、マイクロニードルを用いた培養方法は、皮膚内の炎症や壊死を抑え、摘出後の状態を保ちながら長期に培養可能であることが考えられました。

摘出皮膚の4Dイメージングに成功
新たに開発したマイクロニードルを活用した培養方法を用い、摘出皮膚の状態を生体に近い状態で保ちながら、皮膚内部の立体的かつ経時における動的変化の観察を行いました。
観察には、細胞内の核、細胞膜やミトコンドリアを染色し、共焦点レーザー顕微鏡※6を用いて行いました。
その結果、皮膚内部の表皮細胞や真皮細胞、真皮の血管を構成する細胞などの動きを観察することに成功しました。
さらに細胞の中にあるミトコンドリアの様子も観察され、細胞が生存している状態で動的に捉えられていることが確認されました(参照:※画像1/動画)。

用語解説
- 摘出皮膚 切除されたヒトの皮膚。本研究では、美容整形などで切除された余剰皮膚を使用。また、試験実施にあたっては、ヘルシンキ宣言を遵守し、倫理的配慮のもと入手した皮膚組織を用いて行っています。
- 弾性線維皮膚真皮に存在し、肌の弾力を保つのに働く線維。
- 組織固定細生体試料の構造を観察するために生命現象を停止させる処理。
- マイクロニードル 直径がμm レベルの極細の針。本研究では皮膚へのダメージを最小限に抑えるために使用している。
- 細胞毒性と炎症状態 細胞毒性の指標として乳酸脱水素酵素、炎症の指標として、インターロイキン-8 を用いている。
- 共焦点レーザー顕微鏡 被写体を立体的に観察することができる光学顕微鏡。
- <引用文献>
- †1. Tohgasaki T et al. Skin Health and Disease. 2021:e58.
- †2. Tohgasaki T et al. J Histochem Cytochem. 2022;70(11-12):751-7.
- †3. Kondo S et al. J Cosmet Dermatol. 2022;21(10):4796-804.
- †4. Tohgasaki T et al. Int J Cosmet Sci. 2024. Apr 29
<参考資料>
ニュースリリース
https://www.fancl.jp/news/pdf/20170519_hadanodanryokuiji.pdf