肌・健康の測定技術

鉄不足を血液検査以外の簡便な方法で測定してアスリートの貧血予防を ―早期発見により運動パフォーマンス維持向上へ期待―

POINT

  • アスリートの鉄不足を尿中のフェリチンを非侵襲検査で測定することで早期に発見し、貧血予防の可能性を確認しました。

国立大学法人鹿屋体育大学(鹿児島県鹿屋市)と共同で、アスリートの鉄不足を尿中のフェリチン※1を非侵襲検査※2で測定することで早期に発見し、貧血を予防できる可能性について確認しました。本研究では、大学生アスリートを対象としました。
なお、本研究成果は、日本スポーツ栄養学会第7回大会で報告いたしました。

<研究背景•目的>

ヘモグロビンの維持は、アスリートにとっては持久力などの運動パフォーマンスに影響するもので、低下すると貧血状態になります。そのため、ヘモグロビンの適正な量を維持することが重要です。貯蔵鉄の指標である血清フェリチンはヘモグロビンが低下する前の段階で数値が低下するため、血清フェリチンを定期的に確認することで、貧血状態を回避できアスリートのパフォーマンス維持につながります。しかし、通常フェリチンの測定には血液検査が用いられ、医療機関の受診や痛みを伴うなどの制約が多く、アスリートにおいて貧血予防を目的とした測定が普及していない状況です。
当社は、尿中フェリチンの簡易測定技術※3を開発するとともに、尿中フェリチンの特性について研究してきました※1。本研究では球技系および持久系種目の大学生アスリートを対象に血液、尿検体を用いてフェリチン測定を行い、アスリートの血清フェリチンの特徴を確認するとともに、非侵襲検査である尿フェリチンによる貧血予防の可能性を検証いたしました。

<研究方法•結果>

男子サッカー部、女子バレーボール部、男女陸上競技部中長距離ブロックに所属する大学生アスリート74人(男性43人、女性31人)を対象とし、血清中のフェリチン値と尿中のフェリチン値を検査しました。
体内の貯蔵鉄を反映する指標として広く利用されている血清フェリチンの検査結果では、血清フェリチン値のアスリート基準値が30ng/mLであるのに対して、男性では 2.3%、女性では41.9%が基準値未満に該当し、特に女性アスリートの4割が鉄不足の状態であることが分かりました※図2。 また、性別で種目別の血清フェリチン値を比較したところ、女性は競技による有意な差は認められませんでしたが、男性はサッカー部に比べ陸上部において有意に低い結果となり、競技による貯蔵鉄の状態の違いが確認できました※図3

アスリートは激しい運動による鉄分の消費に加え、汗などによる排出により鉄不足が起こりやすいと考えられています。この結果から、特に女性のアスリートが鉄不足の状態であり、男性アスリートは、持久力などの運動パフォーマンスにより、大きな差があることが分かりました。

血清フェリチン測定と同時に当社で開発した尿中フェリチン簡易測定技術※3を用いて、尿中フェリチン値を測定しました。その結果、血清フェリチン値と尿中フェリチン値に有意な正の相関が認められました※図4
これらの結果より、簡便で非侵襲検査である尿検査によりアスリートの鉄不足状態を早期に発見することで貧血を予防する可能性が示唆されました。貧血を予防することでアスリートの運動パフォーマンスの維持向上が期待できます。

<今後の展開>

本研究により、非侵襲検査である尿フェリチン測定がアスリートの貧血予防に役立てられる可能性が見出されました。今後も引き続き、非侵襲検査によるアスリートの貧血予防およびパフォーマンス維持向上につながる研究を進めます。また、当社のオーダーメイドサプリメント「パーソナルワン」の基本栄養検査「尿検査」においては、尿フェリチン測定による鉄の充足状態を判定しています。本研究で得られたデータを生かし、今後の「パーソナルワン」サービスの向上も目指してまいります。

用語解説

  1. フェリチン鉄を貯蔵するタンパク質。体内の鉄分が不足し始め、潜在的な鉄不足になると体中に酸素を運ぶ働きのあるヘモグロビンよりも貯蔵鉄である「フェリチン」の量が減少します。
  2. 非侵襲検査生体を傷つけず、負担を与えない検査方法。
  3. 参照レポート「尿から鉄分の充足状態が判定できる方法を開発」