プロジェクトストーリー
『マイルドクレンジング オイル』。
リニューアルへの挑戦
看板商品のリニューアル ──考え抜いたその先にあったもの

落ちない角栓、止まる製造ライン、届かないメッセージ。『マイルドクレンジング オイル』リニューアルの2年間、研究、生産、企画の前には、それぞれに越えなければならない壁があった。共通していたのは、これまでの常識が通用しないということだった。
Productストーリーのテーマ商品

無添加スキンケア『マイルドクレンジング オイル』
1997年の初代発売以来、ファンケルを代表するスキンケア商品として選ばれ続けてきた。市場で最も使いやすいクレンジングを目指し、新商品発売直後から次の進化を考えはじめる商品でもある。2026年3月、8代目発売。お客様からは『マイクレ』の愛称で親しまれている。
Memberメンバー
取材当時の情報になります。
クレンジングブランド担当
総合職
化粧品事業本部
クレンジング・洗顔ブランド
黒川 璃々子
2017年新卒入社

クレンジング処方開発担当
研究職
総合研究所 化粧品研究所
飯塚 悠弥
2017年新卒入社

化粧品生産管理担当
生産技術・生産管理職
生産本部 千葉工場
上野 佑理子
2015年新卒入社
Chapter 01『マイクレ』らしい進化とは何か

変えないものが決まると、変えるべきものが見えてきた。
「これ以上、どうやって機能アップを図るのか」。次のリニューアルを考えるにあたり、どのような技術を加えるのか、頭を悩ませていた。長い年月をかけて技術を積み上げ、その時代ごとの悩みに応えてきた。究極のクレンジングは完成したのではないか。そう思いながらお客様の声を聞くと、返ってきたのは「定番だから安心」という言葉ばかりだった。

ブランド担当黒川さん
お客様からは好きだと言っていただけますが、褒めていただく理由は昔から変わっていませんでした。進化していないと言われているようで、これは変えなければいけないと痛感しました。長く愛されてきたロングセラーだからこそ、そう見られてしまう。そんなジレンマがありました。
一方で、変え方を誤れば、長く使ってきたお客様が離れていく。市場には、1本で複数の美容効果を打ち出す商品も増えている。このトレンドに乗ることもできた。それでも黒川たちは、変えないものを先に決めた。メイクも毛穴の汚れも落とす。ただし、素肌に必要なうるおいと油分は残す。一見、シンプルすぎるコンセプト。ただ、最も選ばれてきたクレンジングオイルだからこそ、その中心に立ち続ける意味がある。

ブランド担当黒川さん
尖った商品にするという考えもありましたが、『マイクレ』が大幅にコンセプトを変えるのは違うと思っていました。守るべきものは守りながら、クレンジングの本質をさらに磨いていく。そう腹を括って研究チームに相談すると、当時の責任者の方から「本質をしっかり見定めてくれてありがとう。研究としても、こういうリニューアルのほうがやりがいがある」と言っていただけました。部門を超えて心がつながった気がしました。

処方開発担当飯塚さん
多くのお客様に愛され、社員も思い入れのあるブランドです。だからこそ、本当にリニューアルすべきなのかという迷いはありました。それでも、機能は保ったまま、まだお客様のお悩みに応えきれていないところを高めていく。そう決めて取り組みはじめました。
Chapter 02角栓の正体を明らかにする

ヒントは日常の研究の外にあった。本物の角栓と向き合い、見つけた正体。
「毛穴ケアができると書いてあるのに、角栓がとれた実感がない」。先代『マイクレ』の発売から半年、飯塚が見過ごせずにいた口コミである。各世代の『マイクレ』がいまだ応えきれていない宿題でもあった。飯塚は正面から向き合うために研究テーマを立案し、承認を得た。そのうえで1つだけ決めたことがある。人工の角栓では評価しないこと。目指したのは、実験室で人工的につくられたモデルの角栓ではなく、人間の毛穴に潜むリアルな角栓による評価だった。そのために社員へ匿名での協力を仰いだところ多くの賛同者が集まり、研究は動き出した。
オイルに配合するのだから、油に溶ける成分を探す。1つずつ角栓に当てては落ちるかどうかを確かめる。地道な検証を重ねたが、答えの見つからない日々が続いた。そんな時、まったく別の場所で転機を得ることになる。

処方開発担当飯塚さん
油溶性の成分にばかり着目して、完全に行き詰まっていました。でも、ヒントは案外注目している分野とは別のところにあります。私の場合、それは浴槽用洗剤の研究発表でした。
浴槽の汚れの主成分は、垢(人の肌から剥がれ落ちた角層)と水道水のミネラルが結びついて硬くなったものである。その話を耳にした瞬間、飯塚の頭の中に、クレンジングをするお客様の姿が浮かんだ。日々のクレンジングのなかで、水道水の成分が汚れと結びついてしまっているのかもしれない。外部の協力会社とともに人の角栓を調べたところ、仮説は裏付けられた。角栓を落としにくくしていたのは、角層と水道水のミネラルが結合してできた角栓の殻だった。

ブランド担当黒川さん
研究チームに伝えたのは、もっと毛穴の悩みに応えたいという、お客様起点の想いです。こちらが目指す価値を伝えると、技術の視点から新しい可能性が返ってくる。それをまた一緒に磨いていく。互いに妥協せずに向き合い続ける執念こそ、ファンケルのモノづくりの強さだと思います。
Chapter 03こだわりとつくりやすさを両立させる

つくれなければ届けられない。生産現場に生じた新たな壁。
『マイクレ』は、千葉工場に専用の製造棟を持つ。上野が担当を引き継いだ時、処方も容器の仕様も決まっていた。決められたものを毎日同じ品質で送り出す。そのために現場では、細かな調整が絶えず重ねられている。ところが8代目の初回生産で、製造ラインが止まった。容器の表面の加工を変えたことが原因だった。上野はラインを観察し、止まる箇所を特定。即座に充填チームと協力し、対策を実施した。機械のスピードを変えたり、容器が動きやすいように空気で押し出す機構を追加したりと、生産を遅らせないために打てる手はすべて打った。この間、そもそもの原因である表面加工について容器メーカーにも相談している。

1つの判断ミスが、大きな影響につながります。人を増やせば、その分のコストもかさむ。目の前の応急措置をしながら、根本的な解決のための原因追究を行う。その両方をやり続けている感覚でした。
それでもラインは止まった。残された道は1つ。容器の加工そのものを変えてもらうことだ。上野はそれを切り出せずにいた。容器の色にも形にも、企画チームが積み上げてきたこだわりがある。それが理解できるからこそ、想いを実現したい。だが、このままでは安定した生産を続けられない。意を決し、上野は黒川に声をかけた。どうすれば品質を守りながら安定してつくり続けられるのかを、企画と生産で何度も議論した。上野も黒川も、部門を超えて最善の答えを探せることが、ファンケルのモノづくりの強さだと確信している。

ブランド担当黒川さん
上野さんが率直に課題を共有してくれたことが大きかったです。どうすればこのこだわりを守ったまま製品にできるか。生産だけの問題にせず、一緒に考えることができました。企画、研究、生産と立場は違っても、目指すものは同じ。この商品は関わる全員でつくり上げるものだと、改めて感じました。

企画チームのこだわりを実現したかったので、申し訳ない気持ちもありました。それでも、安定してつくれる形にできたことは大きかったです。毎日、品質を維持して安定的にお届けできる状態をつくるのが、私たち生産本部の使命だと考えています。
Chapter 04伝わるコミュニケーションを模索する

どれだけ良いものでも、その価値が伝わらなければ選ばれない。最後に向き合ったのは伝え方だった。
製品が完成し、次に向き合ったのは、その価値をどうお客様に届けるかという課題だった。技術的には自信のあるものができた。しかし、「汚れを落とす」「うるおいを守る」と機能をそのまま伝えるだけでは、数あるクレンジングの中で『マイクレ』を選ぶ理由にはならない。

ブランド担当黒川さん
私たちにとっては大きな技術進化でも、お客様にとって「自分にどんないいことがあるのか」が伝わらなければ意味がありません。どうすれば『マイクレ』の違いを、自分ごととして感じてもらえるのか。そこはすごく悩みました。
黒川は切り替えた。商品をどう説明するかではなく、お客様がクレンジングをどう捉えているかに目を向けた。関心のない層を対象に調査を重ねた。「落ちる」「守る」と伝えても届かない。ところが、別の切り口なら届くことが分かった。「クレンジングで肌がダメージを受けることがある」。そこからはじめると、聞く姿勢が変わる。クレンジングはメイクを落とすためだけのものではない。毎日の積み重ねが、素肌そのものに関わってくる。『マイクレ』が長く守ってきた価値が、そのままメッセージになった。

ブランド担当黒川さん
商品をつくって終わりではなく、「どうすれば興味を持ってもらえるか」「どう伝えれば価値を感じてもらえるか」まで考える。研究や広告、他の商品を担当するメンバーとも一緒に考えながら、商品づくりからコミュニケーションまで一貫して関われることに、面白さを感じました。
Chapter 05次のリニューアルは、もうはじまっている

8代目は、確かな手応えとともに発売された。それでも3人は、もう次を見ている。
初回生産の日、黒川は千葉工場にいた。約2年をかけて決めてきたことが、目の前で1本ずつ形になっていく。2026年3月、8代目『マイクレ』が店頭に並んだ。初動は通販も含めて前年を超え、美容雑誌のベストコスメにも選ばれた。発売後、店頭のイベントに立った黒川は、お客様から直接声をかけられた。「こんな良い商品をつくってくれて、ありがとう」。企画、研究、生産がそれぞれに積み上げてきたものが、その一言に詰まっている気がした。

ブランド担当黒川さん
思わず「頑張ってよかった」と口にしていました。関わった全員で積み上げてきた時間が、お客様の喜びにつながったと実感しました。
研究の仕事はつくり終えたところで一区切りとなることも多い。それでも飯塚は、お客様に届くところまで見届けなければ意味がないと考える。だから、研究職があまり関わらない領域にも自ら手を挙げた。新商品発表会に立ち会い、業界の展示会でセミナーに登壇した。上野は、もっと早い段階から工場が関わるべきだと考える。仕様が決まる前に現場の目が入れば、事前に防げることがあるからだ。

処方開発担当飯塚さん
お客様に届いて、価値として受け取っていただくところまでが私たちの目標です。だから、研究があまり出ていかない場所にも参加しました。技術のことは、つくった本人が一番正確に話せるはずですので。

工場にいるとお客様の顔は見えません。でも、毎日6トンつくっているということは、それだけのお客様が使っているということになります。数字の向こうに喜んでくれる人の存在を実感できたことが、何よりの財産になりました。
Epilogueエピローグ
長く愛されてきた商品にも、まだ進化できる余地がある。当たり前を疑い、部門を超えてより良い答えを探し続ける。そんな一人ひとりの挑戦が、ファンケルの商品を進化させている。9代目に向けた次の挑戦は、すでにはじまっている。


