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老化研究の今

老化は予防・治療できる?

心身の衰えの原因となる「老化」。そのスピードには個人差があることをご存じですか。さまざまな研究の結果、世界中で「老化は病気であり、予防や治療ができるもの」という認識が広まりつつあります。

 

・加齢と老化の違い

50代以上になって同窓会に出席したら、同じ年齢なのに見た目が若い人がいて驚いた、という経験はありませんか。実は、加齢が誰にでも平等に訪れるのに対し、老化は、その速度に個人差があります。実年齢だけで、人の若さや老化の度合いを測ることはできないのです。
では、加齢と老化はどう違うのでしょうか。加齢は、人が生まれてから経過した物理的な時間、つまり1年に1歳ずつ歳をとることを指します。一方、老化は、体の機能低下によって起こる衰退を意味します。老化には、人それぞれの細胞、組織、臓器などの老化度合いで決まる「生物学的年齢」という概念が含まれています。生物学的年齢は、生活習慣や健康状態、ストレスといった環境因子の影響を受けるため、実年齢と一致するわけではありません。
多くの研究結果より、老化の速度には個人差があることが報告されています。中でも有名なのが、ニュージーランドのダニーデン地方で行われた研究です。同じ年齢の1,037人を26歳~45歳まで追跡して老化のペースを調査した結果、実年齢が1年進む間に、老化のペースが遅い人は0.4歳、最も速い人は2.44歳も歳をとることがわかりました(※1)。すなわち、老化が速い人の体は、遅い人に比べると6倍速で老化が進むといえます。しかも、老化速度の速い人は、見た目も老けていることが確認されています。

・「老化は病気」という概念に移行

かつて老化は、歳を重ねれば誰にでも当たり前に訪れるものと考えられていました。しかし、老化研究の進歩により、かつての常識はくつがえり、「老化は病気である」という概念が広まりつつあります。
こうした現状を受けて、WHO(世界保健機関)は2018年6月18日、病気を診断する際の国際基準「ICD-11(国際疾病分類の第11回改訂版;国際的に統一された病気・死因の分類)」を30年ぶりに改訂し、「老化関連の(Ageing-related)」という補助コードを新設しました。このことにより、カルテに老化についての記載ができるようになりました。
世界中で高齢化が進む中、老化は人々の大きな関心事であり、健康寿命を延ばすことは社会的な課題といえます。「老化は病気である」という新しい概念をもとに、世界中で、老化抑制の研究やより長く健康に過ごすための治療法の開発が進められています。

・老化は外見の変化や不調、病気の原因 

老化による影響は、皮膚のしわやたるみ、白髪の増加などの外見の変化として現れます。そのほか、物忘れが増える、階段や坂道で息切れする、耳が聞こえづらくなる、胃もたれしやすいといった体の変化も起こります。加えて、ときには健康状態の悪化へとつながり、日常生活の質が低下することもあります。
なお、見た目が若い人は気持ちも若い傾向があり、病気にかかりにくいと考えられています。実際に、デンマークで双子を対象に行われた研究では、顔写真をもとに実年齢より若く見えた人の方が、その後の追跡調査において寿命が長く、健康状態も良く、認知症になる可能性が低いことが報告されています(※2)。健康なうちから対策することで、心身ともに健康な自分の状態を維持できるかもしれません。

・12の老化要因

ー 12の老化要因 ー

根本的要因

(老化の直接的な要因)

  • ゲノム不安定性
  • テロメアの短縮
  • エピジェネックな変化
  • タンパク質恒常性の喪失
  • オートファジーの機能障害

拮抗的要因

(老化の進行を防ぐ、または遅らせる作用を持つ要因)

  • 栄養感知の制御異常
  • ミトコンドリア機能異常
  • 細胞老化

総合的要因

(複数の要因が相互に作用し、
老化の進行に影響する要因)

  • 幹細胞の消耗
  • 細胞間コミュニケーションの変化
  • 慢性炎症
  • 腸内細菌叢の変化

2023年に発表された論文では、老化は、食事や運動不足、睡眠不足、喫煙などの生活習慣、ストレスといった複数の要因が影響しあって生じる12の老化要因によって起こると提唱されています(※3)。具体的な12の老化要因は、上に示した通りです。
これらの12の老化要因は、下記の3つの前提条件を満たしています。

  1. ① 加齢に伴って現れる
  2. ② 実験的にそれらを強調することで老化が加速する
  3. ③ それらに対する治療的介入によって老化を減速・停止・逆転させる可能性がある

12の老化要因の中で、特に注目されているのが「細胞老化」です。老化の制御を目指す近年の研究では、細胞を再活性化させる、老化細胞を除去するといったアプローチの研究が進められています。人生100年時代といわれる中で、若々しさを保ちながら長く健康を維持するための研究への期待はますます高まっていくでしょう。

  • ※1出典: Nat Aging.2021;1(3):295-308.
  • ※2出典: BMJ.2009;339:b5262.
  • ※3出典: Cell.2023;186(2):243-278.

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