・細胞老化による弊害
ー 12の老化要因 ー
根本的要因
(老化の直接的な要因)
- ゲノム不安定性
- テロメアの短縮
- エピジェネックな変化
- タンパク質恒常性の喪失
- オートファジーの機能障害
拮抗的要因
(老化の進行を防ぐ、または遅らせる作用を持つ要因)
- 栄養感知の制御異常
- ミトコンドリア機能異常
- 細胞老化
総合的要因
(複数の要因が相互に作用し、
老化の進行に影響する要因)
- 幹細胞の消耗
- 細胞間コミュニケーションの変化
- 慢性炎症
- 腸内細菌叢の変化
老化は、生活習慣やストレスなど複数の要因が影響して生じる「12の老化要因」によって起こると提唱されています(※1)。「細胞老化」は、12の老化要因の一つであり、老化の進行や遅延のカギとなる要因として、現在の老化研究において特に注目を集めています。
私たちの体は、60兆個とも37兆個とも言われる細胞が集合してできており、一つひとつの細胞が分裂を繰り返しながら働き続けることにより維持されています。ただし、細胞の分裂回数には限界(分裂寿命)があり、分裂を繰り返すうちに細胞老化が起きて分裂が停止します。
細胞老化は、癌細胞の増殖抑制や組織の修復など、健康な体を維持するために必要な過程であり、細胞老化そのものに害はありません。一方で、細胞老化によって老化細胞が生じ、蓄積すると、体内の炎症や酸化ストレスを増加させ、臓器や組織の機能低下を引き起こすといった問題につながります。
・老化細胞の特徴
老化細胞とは、細胞老化により分裂が止まり、本来の機能を十分に果たせなくなっているのに体内に残ってしまった細胞のことです。皮膚のしわの発生や、記憶力の低下にも、この老化細胞が関わっていると考えられています。 通常、細胞老化を起こし、分裂が止まった細胞は、自ら死んで壊れる細胞死(アポトーシス)を起こすか、免疫細胞の働きによって除去されます。しかし、一部はこの仕組みをくぐり抜け、老化細胞として体内に残ってしまいます。体内に残った老化細胞は、老化促進物質を分泌して炎症を起こし、周りの正常な細胞を傷つけ、老化細胞へと変えてゆきます。このようにして老化細胞は増加を繰り返し、蓄積していきます。蓄積した老化細胞は、体内の炎症や酸化ストレスを増加させ、臓器や組織の機能低下を引き起こします。
ー 正常な細胞* ー

細胞分裂により成長や修復を行う。細胞老化により分裂が停止すると、自ら死んで壊れる細胞死(アポトーシス)を起こすか、免疫細胞に食べられて体内から消失し、新しい細胞に置き換わる。
ー 老化細胞 ー

細胞老化により分裂が停止した細胞。本来の働きは失われているが、体内に蓄積し続けて老化促進物質を分泌(SASP)し、組織や臓器の機能を低下させる。
- *細胞…生物における基本的な構成要素。体の構造をつくる・食物から栄養素を取り込む・栄養素をエネルギーに変換するなどさまざまな役割を担う。
- *SASP…Senescence-associated secretory phenotype
ー 老化細胞による健康への影響について ー

老化細胞は、高齢者だけでなく、若者や赤ちゃんにも発生することがあります。ただ、若い頃は、細胞の新陳代謝や免疫細胞の働きにより、老化細胞が自然に除去されていきます。加齢により除去するスピードが追い付かなくなると老化細胞が蓄積するようになり、老化細胞が増え始めるのは30代頃からだと考えられています。
また、食べすぎや過度なストレス、睡眠不足などの生活習慣は老化細胞の蓄積を早めることにつながります。
・老化細胞の蓄積による悪影響
老化細胞の蓄積は、臓器や組織の機能低下のみならず、さまざまな加齢性疾患の発症・進展にも関わることが明らかになっています。
例えば、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性症、肺線維症や心筋線維症、肝線維症、腎線維症、眼の変性疾患、椎間板変性症や変形性膝関節症、骨粗しょう症などです(※2)。
老化細胞の蓄積や老化促進物質の分泌によって引き起こされる慢性炎症が、これらの加齢性疾患の発症や進展に関わっていると考えられています。
・老化細胞除去による効果
近年、老化細胞の除去による効果を示した研究が続々と発表されています。
これらの数々の研究より、老化細胞を体内から取り除くことができれば、加齢性疾患の改善や健康寿命の延伸などにつながると考えられています。
今後は、老化細胞を除去することによる影響についてや老化細胞を除去する方法について、研究がさらに進むことが期待されています。
- ※1 出典:Cell.2023;186(2):243-278.
- ※2 出典:Trends Cell Biol. 2020;30(10):771-791.