サステナブルな社会の実現には、気候変動関連の課題解決が最優先と考えます。ファンケルグループは、2050年を見据えた長期的な視点で予測される機会とリスクを考慮し、緩和と適応の両面から気候変動に取り組みます。そして自然の恵みに感謝し、企業活動のあらゆる面において、自然環境の保全に貢献します。
TCFD提言への対応

ファンケルグループは、2020年10⽉にTCFD※の提言への賛同を表明しました。気候変動に真摯に向き合い、事業に影響する機会・リスクへの理解を深化させ、その取り組みの積極的な開示に努めていきます。
TCFD提言では、気候変動に関する「ガバナンス、経営戦略、リスク管理、指標と目標」の各項目に関する情報開示が推奨されています。この4つの開示推奨項目に沿った情報の開示とともに、シナリオ分析、気候変動に伴うリスクと機会を評価しました。
TCFD:
G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)*により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task
Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指します。
*各国の金融関連省庁及び中央銀行からなり、国際⾦融に関する監督業務を行う機関
ガバナンス
ファンケルグループでは、気候変動をはじめとした重点テーマの目標達成と企業価値向上を目指し「サステナビリティ委員会」を設置し、原則年4回開催しています。委員長は代表取締役 社長執行役員が務め、取締役執行役員、執行役員によって構成されています。サステナビリティ委員会は、取締役会が果たすべき監督機能およびモニタリング機能が十分に発揮されるために、取締役会で決議する方針、戦略に関する事前審議のほか、目標の進捗管理・評価、施策の審議などを行っています。
戦略
ファンケルグループは2030年を見据えた長期戦略「VISION2030」を策定し、その実現に向けて事業を展開しています。2018年には「ファンケルグループ サステナブル宣言」を採択し、「環境」に関する方針として、「パリ協定」に準じた温室効果ガス排出削減目標の達成、製品の環境負荷低減のための対策の強化などを推進しています。
また気候候変動によるエネルギーや原料資材の調達リスク、消費者ニーズの変化によるリスク、温暖化や感染症のリスクなどの事業継続上のリスクと、その影響から見えるビジネス機会の抽出と定性的な分析を行いました。
2021年度からスタートした第3期中期経営計画「前進2023」では、ファンケルグループが対処すべき気候変動関連の課題をより明確にして戦略を見直し、2021年5月10日に「2050年度までにCO2排出量実質ゼロ」をはじめとする具体的な定量目標を発表しました。
リスク管理
ファンケルグループでは、事業全般に関わる気候変動関連リスクと機会は、SDGsを推進する部門が全社より抽出した内容を、経営への影響度、発生可能性などをふまえて重要性の識別を行い、ファンケルグループとして管理すべき内容を「サステナビリティ委員会」に上程しています。特に重要な事項は取締役会へ適宜報告を行い、速やかな対応を行っています。
今後は気候変動影響によって影響がおよぶ中長期の財務影響などの定量的な分析に着手し、TCFDが推奨する情報開示の在り方に沿って開示を進めます。
指標と目標
IPCC※による第6次評価報告書では、気候変動が従来予測よりも早く進むことが示唆され、喫緊の課題としてさらなる対策の強化が求められるようになりました。ファンケルグループでは2021年度に発表した第3期中期経営計画「前進2023」では、気候変動に関わる目標を、世界的な潮流および国の方針に呼応して、大きくストレッチし、新たに温室効果ガス排出量を「2050年CO2排出実質ゼロ」とする目標を設定しました。その具体策として、再生可能エネルギーをはじめとしたCO2排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)の電力調達を主軸とした気候変動課題に対応しています。

IPCC
Intergovernmental Panel on Climate Changeの略
=国連気候変動に関する政府間パネル(1988 年設立)
シナリオ分析
ファンケルグループは2020年度に、IPCC第5次評価報告書のRCP2.6(2℃シナリオ)を参照し、対象年を2030年としたシナリオ分析の定性評価を行いました。また、対象範囲は国内の販売3チャネル(通信販売、直営店舗、流通卸売)における、主に化粧品事業・健康食品事業とし、現段階で海外事業は対象外としています。
今後はIPCC第6次評価報告書のSSP1-1.9(1.5℃シナリオ)におけるリスクへの影響を再評価し、レジリエンスの高い事業経営を目指します。

シナリオ | 2046~2065年 | 2081~2100年 | ||
---|---|---|---|---|
平均 | 可能性の高い範囲 | 平均 | 可能性の高い範囲 | |
RCP8.5 |
2.0 |
1.4~2.6 |
3.7 |
2.8~4.8 |
RCP6.0 |
1.3 |
0.8~1.8 |
2.2 |
1.4~3.1 |
RCP4.5 |
1.4 |
0.9~2.0 |
1.8 |
1.1~2.6 |
RCP2.6 |
1.0 |
0.4~1.6 |
1.0 |
0.3~1.7 |
RCP2.6にもとづくシナリオ分析では、特にエネルギー価格変動、炭素価格動向、及び燃料規制動向などを重要なインプットとしています。
シナリオ分析の対象年とする2030年は、ファンケル創業50周年にあたり「VISION
2030」の中で目指すべき姿を描いています。2030年には、ファンケルグループの売上高は現在の約3倍、そのうち海外売上比率は25%を占めると試算しています。
事業の拡大により、エネルギー調達コストやカーボンプライシングなどが製造原価等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
その他、すでに兆しが顕在化している地球温暖化による気象災害の激甚化、デング熱などの熱帯性感染症の発生が高緯度地域にも拡大するリスク、気候変動による農林水産資源への悪影響と、これに依存する当社製品の原材料資材調達に対する調達リスク等、多くのリスクが想定されます。
それらのリスク対応として、再生可能エネルギー導入や、環境負荷を低減したエコ製品の開発、持続可能な原材料調達、温暖化や感染症の拡大に対応した製品開発などを推進して参ります。今後、現状では不十分なリスクの定量分析にも挑戦し、レジリエンス強化を図ります。
リスクと機会
ファンケルグループでは2020年10月に全社的なリスクと機会の抽出を実施しました。
各部門の業務において、気候変動の影響が及ぶ事象について想定し、これらを集約したのち、影響度や発生可能性などの考察を加えてまとめたものを下表に示しています。気候変動影響は地球温暖化レベルが2.0℃から1.5℃へとさらに対策が強化され、一部のリスクと機会はシナリオの見直しが必要となる可能性がありますが、今後内容の精査を行います。
移行リスク |
政策・法規制 |
脱炭素 |
【リスク】炭素税の導入により、工場の操業コストが増加し、支出が増加する 【機会】低炭素エネルギー活用により、コスト削減が可能になる |
---|---|---|---|
容器 |
【リスク】プラスチック容器資材への規制が強化され、対応コストが増加し、支出が増加する 【機会】脱プラスチック容器資材の採用により、企業価値の向上につながる可能性がある |
||
原料調達 |
価格高騰 |
【リスク】炭素税の導入により、工場の操業コストが増加し、支出が増加する 【機会】認証パーム油や認証紙を活用することにより、企業価値の向上につながる可能性がある |
|
消費者ニーズの変化 |
【リスク】エシカル消費への意識向上により、サステナブルでない製品需要の減少・企業価値低下 【機会】エシカル消費への意識向上により、サステナブルな製品需要が拡大・企業価値向上 |
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投資家の評判変化 |
【リスク】気候変動への対応がされていない場合、投資家の評価低下 【機会】気候変動への対応が行われている場合、投資家の評価向上 |
||
物理リスク |
原材料調達 |
病害虫 |
【リスク】病害虫が発生し、植物由来原料の生産量減少や、原材料コストが上昇 【機会】地域により、病害虫の減少に転じた場合は、生産量増加や原材料コスト低下に |
CO2 |
【リスク】雑草の生育効率が向上し、除草剤の使用が増え、支出が増加 【機会】一部、作物の成長力が高まり、原材料コストの低下につながる |
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平均気温の上昇 |
【リスク】エネルギーコストが増加し、操業コストが上昇 【機会】熱中症・冷却クール・ドリンク飲料など新たなニーズに対応する製品が拡大する |
||
水ストレス(渇水) |
【リスク】渇水による水の供給不足、水質の悪化、操業コストの上昇 【機会】節水製品や水不要製品の需要が拡大する可能性がある |
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異常気象の激甚化 |
【リスク】豪雨・台風・海面上昇による設備の損傷、物流の寸断、インフラや事業継続への影響 【機会】自然災害時の防災グッズの需要が拡大する可能性がある |
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感染症の拡大 |
【リスク】渡航禁止・外出自粛などによりインバウンド売上・店舗売上が低迷する 【機会】衛生・免疫・健康など新たなニーズに対応する製品需要が拡大する |